テロに優しく、自制しなかった「マスコミ」の悪影響

「とんでもない誤解だ」と憤る人も多いだろうが、この誤解を世に広めたのは他でもない、マスコミやジャーナリスト・評論家のみなさんである。連日連夜、公共の電波を使って「社会に不満がある人は山上モデルをまねた方がいいですよ」と触れ回ってしまったからである。

「そんなバカな話を広めるわけがないだろ」と怒るマスコミ関係者も多いだろう。確かにストレートにそんなことは誰も言っていない。ただ、結果的に言っている。間接的なことを朝から晩までエンドレスリピートしていたのだ。

 都合の悪い話は忘れてしまう人も多いが、昨年、日本人は安倍元首相を卑劣な方法で殺害した山上被告に異常なほど優しかった。

 海外では、このような事件が起きた際に、テロ実行犯や集団無差別殺人犯などの人柄や、犯行にいたるまで考え方、思想などはなるべく報じないように「自制」をするのが常だ。

 アメリカでは「No Notoriety(悪名を広めるな)」という団体が発足して、その名の通り、事件を起こした人間にフォーカスせず、有名人にしない事件報道をメディアに求めている。模倣犯やさらに過激な犯行の「呼び水」になるからだ。

 例えば、イジメを受けていた少年が学校で銃を乱射して無差別殺傷事件を起こしたとしよう。そこで、この少年がいかにひどいイジメを受けていたかという実態や、彼がSNSに残した「犯行声明」などをテレビが朝から晩まで流すと、何が起こるか。同じようにイジメを受けて絶望している少年が「そうか、死ぬ前にこういう事件を起こせば、いじめてた連中や見て見ぬフリをしていた連中に仕返しができるかも」という感じで、「暴力による問題解決」に流れてしまうのだ。

 これは「アナウンス効果」というマスコミの最も恐ろしい副作用で、有名なところでは「自殺」がある。有名人が自殺した際に、この有名人の苦悩や自殺に至るまでの経緯などをこと細かに朝から晩まで流すと、熱狂的なファンはもちろん、それほどこの有名人に思い入れのない人の中から、自殺をしてしまう人が現れることがわかっている。

 だが、ご存じのように、日本のマスコミはそういう配慮はあまりない。