【異例の大ヒット】小学生向けの「暗算ドリル」が大人に大反響の理由とは?Photo: Adobe Stock

2022年12月7日に発売した『小学生がたった1日で19×19までかんぺきに暗算できる本』。これは、11×11から19×19のかけ算を暗算できる「おみやげ算」という方法を紹介しているものです。2023年4月時点で早くも40.5万部を突破し、話題となっています。小学3年生以上を対象とした本書ですが、大人の「脳トレ」としても非常に人気なのだとか。「大人の読者からの評判はどういったものか」「大人にも役立つものなのか」などについて、著者である東大卒プロ算数講師の小杉拓也氏にお話を伺いました。(取材・構成/神代裕子)

最高齢読者は97歳!「大人の脳トレ」としても大人気!

──本書は11×11から19×19の暗算ができる「おみやげ算」が学べるとのことですが、例えば「16×18」はどのように計算するのでしょうか?

小杉拓也(以下、小杉):次の2ステップで計算できます。

①16×18の右の「18の一の位の8」をおみやげとして、左の16に渡します。すると、16×18が、(16+8)×(18-8)=24×10(=240)になります。

②その240に、「16の一の位の6」と「おみやげの8」をかけた48をたした288が答えです。
まとめると、16×18=(16+8)×(18-8)+6×8=240+48=288です。

この方法で、「11×15」や「19×17」などの「十の位が1の、2桁の数どうしのかけ算」はすべて計算でき、慣れると暗算もできるようになります。

──小学生やその親御さんだけではなく、大人の方が脳トレとして購入されることも多いと聞きました。

小杉:はい。普段、なかなか計算や暗算をすることがない大人の方にも「脳トレ教材」として好評で、「昔学習した算数を学び直す、いい機会になりました」といった感想や、「掛け算への考え方が変わった」といった声も寄せられています。今のところ、97歳のおばあさまが、私が把握している読者の最高齢です。ご家族の方が「97歳の祖母も楽しく取り組んでいるようです」と感想を寄せていただいたことで、知ることができました。

また、ある高齢の読者の方が「これまでできると思っていなかった19×19のまでの暗算ができるようになって、自分でも驚いている。他にも、何か新しいことをしようとする気持ちになった」という直筆の丁寧なお手紙を送っていただきました。本書に満足してくださったこともうれしいですし、さらなる目標のモチベーションにつながったということが、ありがたいです。おみやげ算の習得という、一見小さい体験でも、できないことができるようになると、様々な面での動機が上がることを実感しています。

──やはり「2桁×2桁の暗算なんてできない」という気持ちがある人が多いのでしょうね。

小杉:そうですね。それに、「数字や数学に対する苦手意識」をくつがえして、「できなかったことができるようになった驚き」が、大きな喜びにつながっているのだとも思います。

苦手だと思っていたものができるようになったことで、自分に対する肯定感が上がって、「何か新しいものにチャレンジしてみようか」とモチベーションも上がる、という好循環をつくり出していただいていることもあるようです。

「脳トレ」「頭の体操」にもなる「おみやげ算」

──大人だと、どのような場面でこのおみやげ算が役に立つと思いますか?

小杉:11×11から19×19までの掛け算をするシーンは、身の回りに、意外にあるものです。例えば、「1300円のものを14個購入するといくらになるか」であれば13(00)×14の計算をします。最近はいろいろなものが値上がりしていますが「170円の商品が3割値上げになりました」という場合の値上げ後の金額は、170×1.3(=17×13)で求められるので、いくらになったのかがすぐわかります。「税抜き1900円の商品が税込だといくらになるか」の計算は、1900×1.1なので、「19×11=209だから2090円」とすぐに算出することができます。おみやげ算ができるようになれば、電卓を使わなくてもいいので非常に便利です。

もちろん、スマホを取り出して電卓で計算してもいいのですが、先におみやげ算で一回計算をしてみて、電卓で答え合わせをすると脳トレにもなると思います。そういった形で日常生活にどんどん取り入れていけば、おみやげ算の定着も早まりますし、自らの計算力も上げていけるでしょう。

──確かに、非常に便利ですね! おみやげ算は、11×11から19×19の暗算法ですね。十の位が1以外でもできたら便利だと思うのですが、何か方法はありますか?

小杉:十の位が同じ2桁の数どうしでしたら、同じ方法で計算できます。例えば、「32×38」なら、同じように、右の「38の一の位」であるの「8」を左の32におみやげとして渡すので、 (32+8)×(38-8) =40×30で1200になります。その1200に、「32の一の位」の「2」と「おみやげの8」をかけた16を足して、1216が答えです。まとめると、32×38=(32+8)×(38-8)+2×8=1200+16=1216になります。

ただ、数字が大きくなると少し計算がややこしくなることがあります。例えば「77×76」だと、「76」の「6」を、「77」におみやげとして渡すと83ですから、「83×70」の計算などの、その後の過程が大変になります。ですから、おみやげを渡した後のかけ算が暗算でできる範囲で使っていただくのが便利ではないかと思います。

「おみやげ算」以外のおすすめの暗算法とは?

──先ほど、97歳の方も本書に取り組んでいるとのお話がありましたが、高齢の方へのワンポイントアドバイスなどはありますか?

小杉:「高齢の方だから」という注意点はないので、楽しく取り組んでいただければと思います。ただ、初めのステップ1やステップ2の、数字をおみやげとして渡すだけのところや、例だけ見ればわかるところなどもあるので、飛ばせそうなところは飛ばしていただいても大丈夫です。スピードにこだわりたい方はどんどん進めていただいて構いませんし、マイペースで楽しく取り組んでいただくのもよいと思います。

──ちなみに、おみやげ算以外にも、覚えておくと便利な暗算方法はありますか?

小杉:「45×14」など、「一の位が5の数×偶数」の場合に使える計算方法があります。普通は筆算をすると思うのですが、これは暗算できます。例えば、「45×14」なら、右の14を「2×7」に分解します。すると、「45×2×7」となる。「45×2」は90なので、それに7をかけると「90×7」で630と答えが出ます。

同様に、「35×16」なら「35×2×8」、「25×18」なら「25×2×9」にして計算する。右の数字を「2×□」の形にすれば計算できます。「一の位が5の数×偶数」にしか使えないのでそれほど汎用性は高くありませんが、覚えておくと便利です。

──他にも数字を使ったおすすめの脳トレがあれば教えてください。

小杉:ありがちですが、例えば車のナンバー4桁の数字の間に、+、-、×、÷やカッコを入れて、答えを10にするゲームは楽しいですよ。例えば、車のナンバーが「51-83」だったら、「5×1+8-3」で10になるといった具合です。複数人であれば、誰が一番早く10にできるかを競うこともできます。