国際的に見てなぜ現在の日本において、なぜスタートアップが育たないのか。これまでさまざまな視点で幾度となく語られてきた。今回、入山章栄・早稲田大学大学院経営管理研究科・早稲田大学ビジネススクール教授、加藤雅俊・関西学院大学経済学部教授・同アントレプレナーシップ研究センター長、清水和彦・フォースタートアップス取締役兼アクセラレーション本部長、牧兼充・早稲田大学ビジネススクール准教授の4氏が、大学教授や研究者の観点からこの問題について議論した。その内容を2回にわたりお届けする。前編では、日本におけるそもそもの起業を目指す人材の乏しさ、起業から廃業を含めたエグジットまでのスピードの遅さなどについて語ってもらった。(構成/ダイヤモンド編集部編集委員 竹田孝洋)
日本は労働人口から創業希望者に
移る比率が非常に低い
清水 今回は「大学教授・研究者の視点で語る日本スタートアップ成長への提言」ということで入山さん、牧さん、加藤さんに集まっていただきました。
加藤さんが著された『スタートアップの経済学』では、「日本の開業率は他の主要国と比べて低い。その理由として、労働市場が硬直的な国は創業が停滞しやすい」と書かれていましたね。
加藤 スタートアップというときに、イメージしている対象が実務家の方々とそれ以外の方で違うのではと感じています。実務家の方は創業して死の谷(初期段階から中間段階の間で生じる資金ギャップ)を乗り超えて成長した企業(下図の右上)に目が行きがちです。しかし、実際は下図の下の部分の創業後もあまり成長しない、最悪の場合は失敗する企業の方がずっと多いのです。
政府の政策において、スタートアップは経済成長において非常に重要な役割を果たすという議論がありますが、上記の点を踏まえて議論すべきです。
ではどうやってスタートアップを増やすのか、起業家を増やすのか。一般的に下図の右側のアントレプレナー、スタートアップが生まれてそれをいかに成長につなげるかということに目が行きがちです。しかし、日本のボトルネックとしてよく議論されるのは、左側の労働人口から創業希望者に移るここの比率が非常に低い点です。
要は起業したい、創業したいという思う人の数が少ないのです。ここを増やさなければ、右側のアントレプレナーや成長するスタートアップも生まれなくなってきます。現状のままでは、内閣府が言うところの創業の数を5年で10倍にという目標を掲げても達成は難しいと思います。
起業しようという人材が少ないことがスタートアップが育たない要因であることは常々指摘されていることではある。次ページ以降、4氏による議論によって、起業から廃業を含めたエグジットまでのスピードの遅さも一因であることが明らかにされる。