ハーバード大で和製スタートアップが教材になる理由、スペースマーケット・ラクスル…Photo:PIXTA

ハーバードビジネススクールのコミナーズ教授は近年、日本のスタートアップ企業に注目している。スタートアップ企業の中でも特に興味を持った企業とその理由について聞いた。(聞き手/作家・コンサルタント 佐藤智恵)

「マーケットの創造」の題材にピッタリだった
スペースマーケット

佐藤智恵:コミナーズ教授は2022年3月に、ハーバードビジネススクールの教材『スペースマーケット』を新たに出版しました。日本のスタートアップ企業の中でも特にスペースマーケットに興味を持った理由は何ですか。

スコット・デューク・コミナーズ:これまで日本企業のエニグモ、ラクスル、スペースマーケットの事例について研究してきましたが、いずれも卓越したマーケットプレイス(売り手と買い手が自由に参加できるインターネット上の取引市場)を創造している点に興味を持ちました。

 その中でも、スペースマーケットの事例は、ハーバードビジネススクールの講座「マーケットの創造」で教えるのにピッタリの題材だと思います。

 この授業で私が特に学生に考えてもらいたいと思っているのが、マーケットプレイスの存在目的です。既存の市場にマーケットプレイスが参入すれば、そこに新たな需要と供給が生まれます。すると市場は全体最適を目指して、次の均衡点を目指して動き出します。つまりマーケットプレイスの存在目的は、市場から得られる価値を高め、市場に新たな均衡をもたらすことなのです。

 スペースマーケットは未利用の場所と、場所を探している人とをマッチングさせるプラットフォームを提供しています。そこに掲載されている「スペース」は会議室、ビルの屋上、古民家など多種多様。スペースを何のために使うかを決めるのは利用者です。

 たとえばビルの屋上で、誕生日会やコスプレの撮影会を開催してもよいですし、古民家を借りて家族の食事会やドラマ・映画などの撮影に利用してもよいでしょう。場所のオーナーは未利用の場所を時間単位で貸し出し、利用者は新たな使い方を見いだす。そこに、新しい需給の均衡が生まれるのです。

佐藤:現在、世界にはありとあらゆるマッチングビジネスが存在していますが、コミナーズ教授にとっては、スペースマーケットのどういう部分が新しかったのでしょうか。