「静かで控えめ」は賢者の戦略──。そう説くのは、台湾出身、超内向型でありながら超外向型社会アメリカで成功を収めたジル・チャンだ。同氏による世界的ベストセラー『「静かな人」の戦略書──騒がしすぎるこの世界で内向型が静かな力を発揮する法』(ジル・チャン著、神崎朗子訳)は、聞く力、気配り、謙虚、冷静、観察眼など、内向的な人が持つ特有の能力の秘密を解き明かしている。騒がしい世の中で静かな人がその潜在能力を最大限に発揮する方法とは? 同書の著者に秘訣を教えてもらった。(取材・構成:田中裕子 初出:2022年11月11日)
「あの人みたいになるべき」というメッセージ
──内向型人間で、自己肯定感が低く悩んでいます。どのように考えれば前向きになれますか?
ジル・チャン:多くの内向型人間は、子どものころから「動きが遅い」「口数が少ない」「友達が少ない」など、大人からのダメ出しを受けて育ってきています。「もっとこうしなさい、あの人みたいになりなさい」と否定されがちなわけですから、自己肯定感が低くなりがちなのも仕方ないでしょう。
私自身、現在は組織のインターナショナルチームのリーダーを務め、ありがたいことにベストセラー作家などと呼ばれていますが、それでも友人たちと自分を比べて「あの人のほうが素敵だな」と落ち込むことも多々あります。
そんなふうに自己評価が低くなりがちな人にとって非常に大切なのが、「自分が持っている能力を客観的に評価すること」。他人の力を見つけ、自分と比較して、ないものねだりしていては落ち込んでしまうだけです。
人は、自分が持っていない能力ほど重要で意味があると認識してしまうものですが、冷静になれば、必ず強みがあるはずです。
自分に「できない」という呪いをかけないこと
私の友達で、スピーチがとても得意な政治家がいます。30秒のトークで世界中のCEOと友達になれるような外向的な人物ですが、以前、その友人から「私は10年経ってもあなたみたいな文章は書けないよ」と言われたことがあります。
そのとき、はっとしました。私にとってはごく当たり前にできることも、それが他の人にとっては羨ましさを抱くほどの「強み」であることに気づいたのです。
自分が持っている能力を見つけるためには、自分自身を注意深く分析するしかありません。すぐに「あの人のほうが優れている」と卑下してしまいそうになる気持ちをぐっと押さえ、他人の目線で見つめてみる。
強みは誰にでもあるものですし、それさえ見つけられたら「自分だってそんなに悪くないな」と思えるはずです。この「客観視」と「発見」には練習が必要なので、ぜひ何度もトライしてみてください。
また、自己肯定感が低い人が言いがちな言葉のひとつ、「私にはできない」は禁句にしましょう。今できなくても、努力と経験によってできるようになることはたくさんあります。
たとえばスピーチの役目が回ってきたとき、「大勢の前で話すなんてできない、向いてない」と否定しないこと。
『「静かな人」の戦略書』にも書いたのですが、私自身、人前に出るなんて苦手で、とても考えられなかったのですが、アドリブをしようなんて考えず、内容を完璧に準備してから臨むようにしたことで、意外にも評価してもらえるようになりました。せっかくのチャンスは逃さずつかみ、全力を尽くしましょう。
>>次回「『仕事ができる人』がしている朝の習慣ベスト1」に続く
ミネソタ大学大学院修士課程修了、ハーバード大学、清華大学でリーダーシップ・プログラム修了。アメリカの非営利団体でフィランソロピー・アドバイザーを務める。15年以上にわたり、アメリカ州政府やメジャーリーグなど、さまざまな業界で活躍してきた。本書『「静かな人」の戦略書』は台湾でベストセラー1位となり、20週にわたりトップ10にランクイン、米ベレットコーラー社が28年の歴史で初めて翻訳刊行する作品となり、第23回Foreword INDIES「ブック・オブ・ザ・イヤー」特別賞に選出されるなど話題となっている。Photo by Wang Kai-Yun