日本人はなぜ「醜くても勝つ」より「美しく負ける」を選ぶのか?「醜く勝ち上がるよりも、美しく負けるほうに価値がある」というコンセンサスは一見素晴らしいように見えて、非常に危険なものでもある(写真はイメージです) Photo:PIXTA
*本記事は本の要約サイト flier(フライヤー)からの転載です。

おすすめポイント

「日本人は空気を読む」と言われることがある。礼儀正しく名誉を重んじる代わりに不安と同調圧力が強く、ひとたび怒り出すと手がつけられない。日本人は、日本においても海外においても、おおまかにそのようなイメージで捉えられているといってよいだろう。

『空気を読む脳』書影『空気を読む脳』 中野信子著 講談社刊 946円(税込)

 これまでこうした性質は、主に文化的なものだと思われてきた。「島国」という言葉がなかば自嘲的に使われる点からは、地政学的なイメージも強いようだ。しかし実は、日本人を日本人たらしめているのは「脳」なのかもしれない。

 本書の著者である中野信子氏は、日本人の脳はセロトニントランスポーターの密度が低いことに言及している。セロトニンとは安心感をもたらす脳内物質のひとつであり、日本人はそれを再取り込みする機能が低いことを意味する。すなわち、不安が強い日本人の性質は、教育や文化以前に、体質的なものであるという側面が強くあるということになる。

 とはいえ、変えられないからといって悲観することはない。メカニズムを理解することは、的確に脳をコントロールし、よりよい方向に向けていくことに繋がっていく。政治経済から個人の生き方まで、その単位が人間である以上、脳に向き合うことは避けられない。脳についてその性能を詳しく知ることは、そのまま人間と世界を理解することになるのである。(池田明季哉)