外国人の口座開設を
銀行が嫌がる三つの理由
翌日、約束の時間に現れたフィリピン人は礼儀正しい好青年だった。応接ブースに通し、そのアプリを使って会話をした。そして、彼が早く口座を開設したい理由を理解できた。日本でスマホを所有するためには、利用料金引き落としのため、日本の銀行に口座を持つことが条件だと言われたようだ。
ところが、いくつも銀行を尋ねたものの「外為取り扱いができない」「小さな支店なので」「外国人の口座を作れるスタッフがいない」。ひどいところは「永住権があり、かつ日本企業の正社員、かつ目的は給与振り込みの受取口座としないと口座を開けない」など、それはもう断るのも同然な対応だったようだ。篠部さんのように「英語が苦手だから」と正直に言われた方が、まだ諦めがついたのではないか。
私たちは翻訳アプリを通して話し続けた。手続きが終わり、真新しい通帳を渡した。フィリピンの好青年はとびきりの笑顔で感謝を伝えてくれた。「これで、フィリピンに残してきた恋人とビデオ通話ができる」と喜んでいた。肌の色、言葉は違えど、どこの国の若者も皆同じなんだな…そう感じた。
美談を紹介したが、実際には外国人が口座を開くことを銀行が敬遠したがる理由はいくつかある。
第一に、外国人の本人確認資料、つまり在留カードの確認が面倒だからだ。
海外旅行で数日間だけ滞在する「観光ビザ」では銀行口座は開けない。ホテル滞在で住所が確定しない。つまり、住民票が取れないからだ。したがって「日本に旅行した記念に日本の銀行に口座を作ってきた」というのはあり得ない。
外国人が日本に3カ月以上滞在する際に発給される「在留カード」なるものがある。このカードがないと銀行口座を作ることができないのだ。したがって、3カ月以下の在留期間が決定された人や、短期滞在の在留資格が決定された方には在留カードは交付されないので、銀行口座を作ることはできない。
また、我が行では在留資格が「留学」であれば、在留カードの他に学生証などの提示をお願いしている。「就労不可」とあるのに給与振り込みの受け取りが目的となると、整合性がない。
在留資格が「技能実習」の場合も、在籍証明書(社員証)などのご提示をお願いしている。さらに、スタンプ型などのゴム製印章を除く印鑑の用意もお願いしている。ちなみにオーダーメードで外国人用の印鑑を作ってくれる「はんこ屋さん」は減っており、時間がかかる。
第二に、口座開設後の管理がわずらわしいことだ。
在留期間が経過し延長の届け出をする度に、銀行へ赴き在留カードを提示する必要がある。怠った場合は、現金引き出しやインターネットバンキングの利用は停止となる。全ては違法滞在者に口座を使わせないためだ。しかし、この「都度提示」は外国人にとっても銀行側にとっても、非常に煩雑な手間になっている。
第三に、外国人の口座が犯罪収益口座として利用されやすいからである。
口座を作った外国人が本国に帰る際、口座を解約せず他人に売ってしまうケースがある。メガバンクの口座であれば、高値で買い取られているという。買い取られた口座は、振り込め詐欺などの受け皿口座になる。こうして、多くの人たちの不幸を招くことになる。
口座を売却してはいけないと訴える啓蒙チラシを配っても、帰国するまで覚えていることは少ないのだろう。犯罪に利用されるという認識が浸透せず、なかなか減らないのが現実のようだ。