終電ギリギリまで残業しているのに仕事が終わらない人と、必ず定時で帰るのに成績No.1の人。この差はいったい何だろう? 努力が成果に反映されない根本的な原因はどこにあるのだろうか? そんなビジネスパーソンの悩みを本質的に解決してくれるのが、大注目の新刊『時間最短化、成果最大化の法則──1日1話インストールする“できる人”の思考アルゴリズム』だ。著者は、東洋経済オンライン「市場が評価した経営者ランキング2019」第1位、フォーブス アジア「アジアの優良中小企業ベスト200」4度受賞の北の達人コーポレーション(東証プライム上場)社長木下勝寿氏。本書 の発売を記念し、ビジネスパーソン「あるある」全20の悩みをぶつける特別企画がスタートした。経営の最前線で20年以上、成果を上げられる人と上げられない人の差を徹底研究してきた木下社長にロングインタビューを実施。いよいよ最終回は、「顧客ニーズを読み解く方法」について、教えてもらった。(構成・川代紗生)
秘伝の「マーケティング・メソッド」で
商品企画がスイスイ進む!
──商品の企画を立てたり、マーケティング戦略を考えたりするとき、いつも使っているフォーマットなどはありますか?
木下勝寿(以下、木下):「3C分析によるUSPの抽出」という独自のフォーマットを活用しています。
ご存じの方も多いかもしれませんが、「3C分析」とは、マーケティング戦略を立てる考え方の一つ。
そして、「USP」とは、自社独自のセールスポイントや、競合より優れている強みとは何かを示す「Unique Selling Proposition」の略語です。
これを私なりにアレンジしたものが以下のフォーマットです。
商品の企画や、広告のコンセプトなどを考えるために活用しています。
これを使うと、「誰でも」「あらゆる角度から分析した」企画が簡単にできます。
──すごいですね! 詳しく教えていただけますか?
木下:一つずつ、順番に説明します。
前提として、3C分析の「C」とは、
・COMPANY=自社、自社商品
・CUSTOMER=顧客、ユーザー
・COMPETITOR=競合
上の3つの頭文字をあらわしたものです。
この3つの要素の組合せで、いま、どんな商品が求められているのかを考えていきます。
これが「3C分析」の基本ですが、私はこの3つの要素の掛け合わせから、戦略を組み立てています。
1.ユーザー×商品
木下:まず最初にやるのは、
・自社商品にはどんな特徴があるのか?
・その特徴は、どんなタイプのユーザーにとって有効なのか?
を考えることです。
たとえば「自動車」なら、見た目のカッコよさを求める人もいれば、家族で使うために「広さ」を重視する人、価格や燃費、コスパ重視の人もいますよね。
このように、ユーザータイプを「A」~「E」などいくつかに分類します。
それぞれのユーザータイプに、この商品のどんな特徴が一番刺さるのか、思いつく限りパターンを列挙するわけです。それが上の表の右下の図を拡大したものです。
木下:このように、掛け合わせによってできた要素を一つずつ埋めていきます。
──なるほど。ユーザータイプは、プロダクトごとに分け方は変わりますか? 年齢、性別、地域など、いろいろな分け方ができると思うのですが。
木下:おっしゃるとおり、プロダクトの特徴によって切り口は異なるので、あえて決めないほうがいいと思います。
──必ずしも、独身、DINKS、ファミリーのような分け方をしなければならないわけではない、ということですね。
木下:そうです。たとえば、「通勤用の服」を売りたい場合。
・電車で通勤する人
・バスで通勤する人
・車で通勤する人
というように、「通勤手段」を切り口にするのもいいでしょう。
他には、
・営業職で外にいる時間が長い人
・事務職でデスクワークが多い人
と「働き方」を切り口にすることもできますね。
私は、切り口を何回も変えながら、ユーザータイプを考えています。
2.ユーザー×競合
木下:次に、「1.ユーザー×商品」で列挙した「A」~「E」タイプそれぞれのユーザーのまわりにどんな競合がいるのか、洗い出します。
ここでポイントになるのは、「競合」とは「プロダクト競合」に限らないということです。私は、競合を以下4つにカテゴリ分けして考えています。
・プロダクト競合
例1:「車」VS「他社の車」
例2:「育毛剤」VS「他社育毛剤」
・メソッド競合
例1:「自家用車」VS「レンタカー」「タクシー」「バイク」
例2:「育毛剤」VS「AGA治療」「かつら」「植毛」
・インサイト競合
例:「めんどくさい」「お金をかけたくない」などの気持ち、意識
・競合が存在しないブルーオーシャン
──「競合」というと「プロダクト競合」ばかり考えてしまいがちです。
下の3つはあまり考慮していなかった、という人も多い気がします。
木下:今回私が出版した『時間最短化、成果最大化の法則』についても、「プロダクト競合」だけに着目すると、「他の著者が書いた本」「ダイヤモンド社以外から出ている本」が該当します。
ですが、「メソッド競合」で考えてみると、スマホも競合になります。
SNSやYouTubeなど、ウェブコンテンツと競合する可能性もありますよね。
──たしかに、そうですね。3つ目の「インサイト競合」というのは、ユーザーの「気持ち」ということでいいのでしょうか?
木下:そうです。たとえば、冷凍食品の競合について考えてみると、「レンジで温まるまで待ってるのはめんどくさいな」という「インサイト競合」が出てきます。
それに対し、「レンジ1分ですぐに食べられます」とアピールできれば、それが売りになる。逆に、「レンジで10分かかります」となると、売るのが難しいかもしれないですよね。
──たしかに!「インサイト競合」、とても大事ですね。
木下:このように、4つのカテゴリの競合のうち、メインの競合はどれか? と考えます。
それをまた、表の左から3列目に入れます。
3.商品×競合
──最後に、「商品」と「競合」の掛け合わせですね。どんな点について分析するのでしょうか。
木下:ここでは、「特徴」と「競合情報」を比較し、「競合にいえなくて自社商品にいえる特徴」「競合商品よりも優れているところ」があるかどうかを判断し、○×をつけます。
──表でいうと、一番右の欄ですね。
木下:そうです。独自性があると判断すれば、◯。そうでなければ×と入力します。
こうしてすべてをピックアップした後、競合にも勝っていて独自性もあると判断した項目が2つあったとします。
この表でいえばBとDに◯がついていますが、では、どちらをメインターゲットにするべきか?
ここまで絞れたら、後はユーザータイプ人数が多いほうを、まずはメインターゲットとします。
たとえば車なら、「価格」を重視する人と「加速性」を重視する人、どちらが多いだろう? おそらく「価格」で判断する人のほうが多いはずだから、まずはそちらから攻めていこう、というように、優先順位が決まります。
「都合のいい競合しかピックアップしない」
問題の解決策
──難しく感じていた項目がすべて言語化されていてとてもわかりやすいです。
これはどうやって思いついたのですか?
木下:もともと、「3C分析」を漠然と感覚でやっていたんです。
「体系立てて順番にやればスムーズだな」と気づいたのが、最近ですね。
──もっとも見誤りやすいのは、どこでしょうか?
木下:どれも慎重に考える必要がありますが、一つ挙げるとすれば「2.ユーザー×競合」分析です。
どうしても「プロダクト競合」にばかり目がいき、「自分に都合のいい競合しかピックアップしない」ことが、結構起こりがちだと思います。
思わぬ強力な「メソッド競合」や「インサイト競合」を見落としてしまい、企画やプロモーションの方向性を誤ってしまうともったいないので、このフォーマットを活用していただけたら嬉しいです。
(本稿は、『時間最短化、成果最大化の法則』に掲載されたものをベースに、本には掲載できなかったノウハウを著者インタビューをもとに再構成したものです)