企業は宗教化していく必要がある

入山 暴走族以外で学ぶべきなのは、月並みですが宗教ですよね。僕は今の日本で最高の宗教家は、ユーグレナの出雲充さんだと思っているんです。以前、本人にも直接、「出雲さんがやっていることってほぼ宗教ですよね」と、半分本気で言ってみたことがありますが、彼もそれを否定していませんでした。

佐宗 実は、この『理念経営2.0』を書くきっかけの一つとなった2019年のパーパスの論文は、今までの「軍隊型」組織に対して、理念という土台に人が群れる「宗教型」組織がこれからは必要になるという論旨だったんです。強い理念のある組織って、宗教的な組織と似ていますから。

 今回の書籍もそういった切り口にするか迷いました。実際、宗教のメカニズムについてもかなり調べたのですが、とても強力である一方で、悪用される可能性もあるなと感じました。マスに広がっていく「本」というメディアでこれを伝えてしまうと、社会的に良い結果をもたらさないリスクもあるなと。それで、途中からアングルを変えたんです。

 ですが、先生がおっしゃるとおり、これからの時代は、しっかりした理念を持つ企業が、個人にとっての生きるよりどころになっていくのは間違いないですね。答えが見えない時代だからこそ、自分と似た理念を持った会社で働きたいし、そこで自分の生きる意義を見つけられたら、救われる人も多いだろうなと思います。

入山 その通りだと思います。僕は今、宗教に非常に興味があって、某メディアで池上彰さんと宗教対談をやっているのですが、キリスト教やイスラム教など、今広まっている宗教は人がたくさん死ぬ時代のものなんですよね。死後どうなるのか、なぜ人はこんなにも簡単に死ぬのかという点に最大の問いがあって、「死後、天国でこう報われます」と説明するのですが、その後、人類が豊かになって長生きするようになって「我々はなぜこんなに生きなきゃいけないのか」と、問いが変わったと僕はとらえています。その結果、すぐにご利益がありますよ、儲かりますよという現世救済型の宗教が増えました。

 ただ、僕の理解では、今はそういう時代も終わってしまったんです。この先には高度経済成長は望めず、世の中には環境問題や社会問題がたくさん生まれてきている。そういった中でも生きていかなければならなくなったときに、たぶん新しい宗教が求められるのですが、既存の宗教ではそれに応えられないんです。だから、欧米でも若い世代の宗教離れが進んでいます。でも人間って、何か信じられるものがないと生きていきにくいですよね。だから代わりにスタートアップ、社会起業を信じているのだと思うんです。

佐宗 おっしゃる通りだと思います。そうなんですよね。

入山 宗教の代替なんですよね。既存の会社に満足できない若い人たちが、出雲さんというクレイジーな人がつくったユーグレナという会社に出会って、「この会社はすてきだな」「これを信じれば自分の心が救われるかも」という思いを抱いている。だから、ユーグレナにはどんどん若い人が集まってきます。これからの会社はそうなってくるはずだし、そうでないと生き残れないですよね。

企業が「暴走族と宗教」に学ぶべきこと
佐宗邦威(さそう・くにたけ)

株式会社BIOTOPE代表/チーフ・ストラテジック・デザイナー/多摩美術大学 特任准教授

東京大学法学部卒業、イリノイ工科大学デザイン研究科(Master of Design Methods)修了。P&Gマーケティング部で「ファブリーズ」「レノア」などのヒット商品を担当後、「ジレット」のブランドマネージャーを務める。その後、ソニーに入社。同クリエイティブセンターにて全社の新規事業創出プログラム立ち上げなどに携わる。ソニー退社後、戦略デザインファーム「BIOTOPE」を創業。山本山、ソニー、パナソニック、オムロン、NHKエデュケーショナル、クックパッド、NTTドコモ、東急電鉄、日本サッカー協会、KINTO、ALE、クロスフィールズ、白馬村など、バラエティ豊かな企業・組織のイノベーションおよびブランディングの支援を行うほか、各社の企業理念の策定および実装に向けたプロジェクトについても実績多数。著書に最新刊『理念経営2.0』のほか、『直感と論理をつなぐ思考法 VISION DRIVEN』(いずれも、ダイヤモンド社)などがある。