社会のデジタル化を強力に推進してきたGAFAMだが、その快進撃も今は昔。コロナ禍の後遺症やウクライナ情勢の長期化に伴う資源高、原材料の供給不足、インフレ、高金利などの影響で、各社ともかつての驚異的な成長率や収益性に陰りが見えつつある。現在は、どの企業もレイオフやコスト削減に取り組んでいる状況だ。こうした状況を踏まえると、これまで以上に優秀な人材の流動性も高まっているはずだが、日本企業が雇用の受け皿になっているという話はどこからも聞こえてこない。なぜ日本は高度外国人材獲得の好機を生かせないのか。日米のビジネス事情に精通した筆者が分析する。(マッキンゼー・アンド・カンパニー パートナー 工藤卓哉)
日本は外国人にとって
遊びに来るにはいい国だが……
筆者は長らく日米を行き来する生活を続けている。日本生まれ、日本育ちのひいき目を差し引いても、日本にはアメリカをはじめとする諸外国にはない魅力が数多くある。
四季の美しさや食べ物のうまさ、安全で清潔な街並み、温泉施設や世界遺産、公共交通の正確性、そのどれを取っても世界に誇れる水準だ。
西欧や他のアジア諸国にはない独特な歴史・文化がある一方で、最新のレジャー施設にも事欠かない。欧米諸国よりも物価水準が低いのも魅力的だ。観光地に訪日外国人があふれ、インバウンド需要が急速に回復しつつあるのもうなずける。
日本国民も自国の魅力を自覚しているのか、訪日外国人に日本の素晴らしさを語らせ、視聴者の自尊心をくすぐるテレビ番組がいまだに人気だ。
そこで語られる褒め言葉にリップサービスが含まれていることに気付かない人はいないはずだが、彼らの言葉を額面通り受け止める日本人もいる。日本は外国人にとって憧れの国であり、いつか住みたい国だと思い込んでいるのだ。
しかし、外国人の視点に立つと違う風景が見える。有り体に言えば、大半の外国人にとって日本は、安くて質の良い体験ができる観光地、もしくは一時的に滞在する仕事の場であり、生活基盤を築き長く住みたいと望む国ではないのだ。
なぜ筆者がそう思うのか、具体例を挙げて説明しよう。