言い方を変えれば、SaaSを利用している客は、そのサービスに満足しているということです。その結果、さらにサービスの質は高まっていきます。
体験が軸になっていく上で、触れておくポイントがもう1つあります。提供していくサービスそのもので、利益を出す必要がなくなることです。たとえばアップル。アップルがアップルカードのサービスを手がけたのは、iPhoneユーザーを囲い込みたいからです。
言い方を変えると、アップルはiPhone事業で儲ければいい、という考えです。つまり、カード事業ではあくまでユーザーに快適な体験を提供するための施策なのです。さらに言えば、データを収集するためのツールであり、顧客とのタッチポイントでもあるのです。
ですから極端に言えば、アップルはカード事業の利益がゼロでもいいわけです。カード会社がGAFAに飲み込まれる可能性があるのは、そういった理由もあるのです。
ハード、ソフト、サービス、そして業種の壁も気にしない。重要なのは顧客の満足度である。このようなマインドの企業が、未来で勝ち残ります。
「売れない」は
失敗ではなくなる
特定の事業で利益ゼロ、あるいは赤字でもよいとの考えでは、発売した商品やサービスが売れなくても失敗ではない、ということにもなります。
アマゾンは次から次に新しいデバイスを世に出していますが、彼らの考えはこうです。仮にそのデバイスが売れなかったとしても、ある程度顧客データが取得できればいい。あるいは、そのデバイスをきっかけにアマゾンプライムに入会してもらえればいい。
もっと言えば、アマゾンプライムに入会してくれれば、結果として利益につながりますから、eコマースで販売している商品は、10%オフでも構わない。他のECサイトから見れば赤字の価格で販売することが、ビジネスモデル的には可能なわけです。
アマゾンがこのような傾向が加速してきたとみられるようになったのは、2014年に発売したアマゾンのスマートフォン、「ファイアフォン」での経験です。このファイアフォンは、まったく売れませんでした。
しかし顧客の反応を獲得することができ、次の商品への糧となった。これで、アマゾンは以降、次から次へとデバイスを発売するようになりました。
スマートスピーカーにおいては、モニターが備わったモデルもあれば、コンセントに差しこむことのできるタイプ、電球に取り付けるようなものなど、多様なラインナップを揃えています。