イノベーション創出に寄与するコミュニティ
「エコシステム形成の場」は、一企業のうちには留まらない。社内外を含むコミュニティのパワーを掛け合わせていくことで、新たな産業・市場をゼロイチでつくり出す動きはさらに大きく増幅されていく。
コミュニティへと場を広げることで、イノベーション創出にも寄与する。企業内や構造化された組織では同質性が高く、硬いつながりが多くなる傾向にあり、新たな思いがけない組み合わせによるイノベーションに限界をもたらしてしまうこともある点を突破するものである。
そうした動きの一つとして東京丸の内の街全体で仕掛けるTMIP(Tokyo Marunouchi Innovation Platform)を紹介したい。
TMIPは、東京丸の内エリアに集積する大企業を中心とした社会課題解決型イノベーション創出を目指して、2019年に始動した「産・官・学・街のオープンイノベーションプラットフォーム」である。現在、150以上の大企業、スタートアップ、大学、ベンチャーキャピタル、省庁などが参画し、「緩やかなつながり」によって「産・官・学・街」のプレイヤーをつなぎ合わせた「新結合」の創出を目指している。
TMIPの組織は、実際の事業を産み出す主体となる大企業の「会員」と、それを支えるVCや大学等々の「パートナー」からなる。事務局は、一般社団法人大丸有環境共生型まちづくり推進協会が務め、TMIPの各種プログラム・イベントを運営している。東京丸の内エリアという世界でも有数のビジネスセンターに集積する質の高いプレイヤーを擁するという唯一無二の価値は、参画者にとって魅力であり、信頼の拠り所でもある。
TMIPはイノベーション創出のために、さまざまなプログラムを提供している。主なものとしては、ネットワークやコラボレーションの土台づくりとなる多様なテーマでのセミナー、ネットワーキングイベントの主催・共催、特定の領域に絞って議論を深める場づくり(「イノベーションサークル」)、大丸有(大手町・丸の内・有楽町)地区で行う実証実験のコーディネートと事業化への支援(「アーバンラボ」)、市場創造に向けた政策提言(「アドボカシー」)などがある。
その中で、特筆すべきものが「イノベーションサークル」だ。これは、TMIPの会員企業が特定の社会課題やテーマを掲げ、共感する他のプレイヤーと新たなサークル(コミュニティ)を形成して、情報共有や意見交換を行っていくための枠組み。実証実験を行ったり、機運を高めるためのシンポジウムを開催したりしており、事業化に向かっているものもいくつか出てきているという(図表2)。
書籍『パワー・オブ・チェンジ』では、TMIPの事例以外にも、マーケティング視点からの「顧客コミュニティ」、同じ趣味・嗜好を持つ同士で形成される「推しコミュニティ」、さらに、新たなデジタル技術であるWeb3を活用した「DAO(分散型自律組織)」についても解説しているので、ぜひ参考にしてほしい。