ブレーメンの音楽隊に見るコミュニティの姿
ブレーメンの音楽隊は、加齢などにより人間の下で仕事ができなくなってしまった動物たち(ロバ、犬、猫、ニワトリ)が自分らしい新たな人生を歩むために「ブレーメンで音楽隊をやろう」という夢を持って集まることから物語が始まる。物語の冒頭では、動物たちが人間と暮らして働いているが、ここでは人間が上、動物が下という明確なヒエラルキーが存在している。これは動物たちが住んでいた家庭、地域という固定的な集合の中であり、旧来コミュニティの世界観と近しいものがある。
物語の途中で泥棒が住む小屋にたどり着き、食事を得るためにも動物たちは泥棒を追い出すことを決意する。そして、動物たちは力を合わせて、ロバの上に犬、その上に猫、そしてニワトリがてっぺんに乗り一つの大きな影に見せていっせいに声を上げ、泥棒を驚かせて追い出すことに成功する。極めつけに、泥棒を追い出した翌日に改めて帰ってきた泥棒の子分を、動物たちがひっかき、噛みつき、蹴とばし、嘴でつつき……とそれぞれの個性を使って役割を果たし、子分すら追い払ってしまうのである。
彼らの中にヒエラルキーは存在せず、それぞれがみずからの特長を活かしながら自律的に意思決定をして役割を全うし、対話を通じた協力(共創)により泥棒を追い出すという不可能とも思える目的を達成している。当初はブレーメンで音楽隊をすることが目的で旅を開始するものの、最終的には泥棒を追い出して平穏に暮らすというゴールに帰着している。まさしく私たちの描くコミュニティの姿である。
コミュニティに近しい概念の一つとして、エコシステムを想起される方も多いかもしれない。これは、相互作用する組織や個人の基盤に支えられる経済的コミュニティを意味し、経済的な利害関係や依存関係を指すものでもある。これまで数多のエコシステム形成が推進されてきたが、(一部を除いて)信頼に基づく真のつながりを通じた価値創出を達成しているわけではない。利害関係や依存関係を前提にせず、あくまで共通の理念やパーパスでの連帯を持つ共同体であるコミュニティこそが、エコシステムを補完する概念として、実効性のある価値創出を生み出す中核となる。