「あれ? いま何しようとしてたんだっけ?」「ほら、あの人、名前なんていうんだっけ?」「昨日の晩ごはん、何食べんたんだっけ?」……若い頃は気にならなかったのに、いつの頃からか、もの忘れが激しくなってきた。「ちょっと忘れた」というレベルではなく、「しょっちゅう忘れてしまう」「名前が出てこない」のが、もう当たり前。それもこれも「年をとったせいだ」と思うかもしれない。けれど、ちょっと待った! それは、まったくの勘違いかもしれないのです。
そこで参考にしたいのが、認知症患者と向き合ってきた医師・松原英多氏の著書『91歳の現役医師がやっている 一生ボケない習慣』(ダイヤモンド社)だ。本書は、若い人はもちろん高齢者でも、「これならできそう」「続けられそう」と思えて、何歳からでも脳が若返る秘訣を明かした1冊。本稿では、本書より一部を抜粋・編集し、脳の衰えを感じている人が陥りがちな勘違いと長生きしても脳が老けない方法を解き明かす。

【91歳の医師が明かす】認知症リスクが10倍以上高まる“身近な症状”イラスト:chichols

高血圧と糖尿病を正しく恐れる

【前回】からの続き 高血圧糖尿病を正しく恐れるために、データを示しましょう。

これから紹介するデータは、九州大学が主体となり、福岡県久山町で1961年から続けられている生活習慣病の疫学調査から引用します。これは追跡年数・精度・規模などの点から、「久山町研究」として世界的に注目されている研究です。

認知症に関しては1985年から調査が行われています(出典:「久山町研究からみた認知症の予防」[小原知之、清原裕、二宮利治])。

高血圧と認知症リスク

まずは、高血圧と認知症の関わりについて見てみましょう。久山町研究では、1988年に健診を受診した認知症のない65~79歳の住民668人を、血圧レベルで次ページの4つに分類して17年間追跡調査。「脳血管性認知症」「アルツハイマー型認知症」の発症リスクを検討しています。

「収縮期血圧」とは、心臓がドクンと収縮して血液を送り出したときの血圧で、「最高血圧」(上の血圧)のこと。「拡張期血圧」は、心臓が拡張して血液を受け入れているときの血圧で、「最低血圧」(下の血圧)のことです。

4つの血圧レベル
正常血圧 収縮期血圧120mmHg未満かつ拡張期血圧80mmHg未満
高血圧前症 収縮期血圧120~139mmHgまたは拡張期血圧80~89mmHg
高血圧ステージ1 収縮期血圧140~159mmHgまたは拡張期血圧90~99mmHg
高血圧ステージ2 収縮期血圧160mmHg以上または拡張期血圧100mmHg以上

この分類で、正常血圧の人が脳血管性認知症を発症するリスクを1とするなら、高血圧の人が脳血管性認知症を発症するリスクは、下のようになりました(中年期は50~64歳、老年期は65~79歳。中年期は、同じ集団が15年前に健診した際の血圧値を用いています。性、年齢、降圧薬服用、糖尿病、喫煙、飲酒などの因子を調整済み)。

高血圧と脳血管性認知症の発症リスク(正常血圧の人のリスクを1とした場合)
高血圧前症 中年期2.4倍 老年期3.2倍
高血圧ステージ1 中年期5.9倍 老年期4.7倍
高血圧ステージ2 中年期10.1倍 老年期7.3倍

認知症リスクが10倍以上!

中年期でも老年期でも、血圧が高くなるほど、脳血管性認知症の罹患(りかん)リスクが上がることがわかります。

【91歳の医師が明かす】認知症リスクが10倍以上高まる“身近な症状”

とくにステージ1以降の高血圧では、正常血圧の人と比べると統計上有意な差があり、中年期ではステージ1で約6倍、ステージ2で約10倍もリスクが高いことがわかりました。

一方、アルツハイマー型認知症に関しては、老年期のみならず中年期の血圧レベルの上昇が、発症リスクを高めるような傾向は見られませんでした。【次回へ続く】

※本稿は、『91歳の現役医師がやっている 一生ボケない習慣』より一部を抜粋・編集したものです。