日常管理も修繕もままならず、マンションがスラム化する管理不全。実はこの危機は地方のみならず東京にも迫っている。管理についての国の制度もこの4月から大きく変わった。売買でも住む際でもマンションについて最重要となる管理の在り方は、今後どうなるのだろうか。特集『マンション管理 天国と地獄』(全18回)の#3では、都内でも迫り来るスラム化マンションの危機と、その防止策について見ていこう。あなたのマンションにも実はスラム化、管理不全の予兆があるかもしれない。そして、この情報を知っておけば、管理崩壊した中古マンションをつかまされるリスクも減るだろう。(ダイヤモンド編集部 鈴木洋子)
滋賀の「管理崩壊廃虚マンション」
その予備軍は東京にも潜んでいる
住人は誰もおらず、朽ち果て、壁には大きな穴が開いた建物。外壁にツタが茂り外階段の手すりが外れてぶら下がる。滋賀県野洲市の車の往来が激しい道のすぐ横に立つこの廃墟は、元は1972年に建てられた、美和コーポB棟という名の小ぎれいなマンションだったという。
美和コーポB棟は手すりの落下や、人体に有害なレベルのアスベストが飛散するなど、周辺住民に危害を及ぼす恐れがあるとして、十数年もの間地域で問題になっていたマンションだった。管理不全が原因で、行政が行政代執行によって私有財産であるマンションを解体する全国で初めてのケースとなり、2020年に全国で報道された。
美和コーポB棟にはそもそも管理組合がなく、大規模修繕をしたことも一度もなかったという。市が9戸の区分所有者に建替えを呼び掛けるも、所有者が行方不明などで合意が取れず頓挫。結局市が1億1800万円もの費用を立て替える形で解体した。区分所有者からは一部しか費用を回収できないまま現在に至るという。
倒壊しそうな建物が、周囲に危険を及ぼすに至っても、本来建物の維持管理に責任を持つべき住民がそれに応じず、結局税金負担で対応せざるを得なくなる。たった9戸のマンションが、かつて問題となった戸建て空き家とは段違いの迷惑建物となってしまっているのだ。
実は、美和コーポB棟のような管理不全マンションは、近い将来東京でも次々と出現することになるかもしれない。
東京では全世帯数に占めるマンション戸数が27.7%と過去最高に達した。マンションはすでに日本の住まいの中核となっているが、そこに住み続けるために必要不可欠な管理がないがしろにされてきた結果、今重大な問題が起こっている。実は、次ページで詳述するように、東京でも驚くべき数のマンションに管理不全の兆候があることが、東京都の調査で判明したのだ。
そして、これまで物件の価格と価値に対してあまり影響を与えてこなかった管理の社会的重要性が、まさに22年から大きく変わる制度が誕生した。管理の良しあしで、マンションが天国になるか地獄になるかがはっきりと分かれる時代がやって来たのだ。
この動きをきちんと把握していないと、あなたのマンションもスラム化、管理不全に陥る危険性がある。あるいは、購入前なら管理崩壊した中古マンションをつかまされる羽目に陥ることも。次ページからはそれらをつぶさに見ていこう。