企画を作っても作っても、上司からもクライアントからもOKが出ない。企画が通る人と通らない自分との違いがわからない。そんなドツボにハマってしまっている人も少なくないのではないだろうか。そんな人にぜひ読んでいただきたいのが『発想の回路』だ。著者である中川諒氏は、まさにそういった苦悩を乗り越えて、「通る企画」を考えられるようになり、数々の広告賞を受賞するまでになった人である。一体どうすれば、企画が通るようになるのか。本記事では、本書の内容をもとにその方法をご紹介する。(構成:神代裕子)

発想の回路Photo: Adobe Stock

「他人の『おもしろい』」を満たす企画を

 本記事の筆者の前職は、制作会社のディレクターだ。主には広報誌の編集をしていたが、時々クライアントからの要望で、企画の提案を求められた。

 それは例えば、スタッフに企業理念を浸透させるための方法だったり、新サービスを利用してもらうための広告だったりとさまざまだ。

 いいアイデアが浮かび、すんなり企画が通る時はいい。しかし、通らないと悲惨だった。

 いろいろと提案しても、クライアントは渋い顔。かといって、「じゃあ、今回は……」と引き下がるわけにもいかず、再提案が求められる。

 そうなると焦ってくるし、苦しくもなる。答えが出ないまま時間ばかりが過ぎ、迷宮にズブズブと入っていく。これはなかなかつらいものだ。

 本書の著者である中川諒氏も、広告代理店でコピーライターをしていた時代、なかなか企画が通らないという壁にぶつかっていたことがあるという。

 その理由を彼は「自分の『おもしろい』は満たしていても、みんなの『おもしろい』が一体何なのか分かっていなかった」と語る。

 つまり、通る企画や人から認められる企画を作るためには、「他人の『おもしろい』を知ること」が必要だということだ。

 中川氏は「アイデアは自分の頭で考えて、企画は他人の頭でチェックする必要がある」と指摘する。

評価された企画を分析し、基準を見つけ出す

 他人の困りごとや要望は、アンケートを取ったりweb検索をかけたりすれば大体把握することができる。

 しかし、他人がどのようなものを「おもしろい」と感じるのかを知るのはなかなか難しい。一体どうしたらいいのだろうか。

 中川氏が行ったのは、みんなの「おもしろい」の基準を見つけ出すことだったという。

 カンヌ広告祭に応募するなら、過去の受賞作をひたすらエクセルにまとめ、それぞれの企画を分析。抽象化してパターンを出し、自分が企画をするときに使えるツールをつくった。

 そのツール=回路を作って企画を出した年に、彼は国内予選で1位となり、日本代表の座をつかんだ。

 念願のコピーライターになったときには、東京コピーライターズクラブのTCC賞を受賞したコピーをエクセルにまとめ、そのコピーをコピーライターがどのようにクライアントにプレゼンしたかを勝手に想像して、プレゼンのストーリーを書き足していったのだそうだ。

 これは、「いいコピーを書いた人の思考回路を勝手に想像してなぞっていく作業だった」と中川氏は語る。

 そうして、その思考回路をもとにコピーを書いていった結果、中川氏はTCC賞を受賞する。

 こうして彼は、みんなの「おもしろい」の回路を自分にインストールしていくことで、企画が通るようになっていったのだ。

アイデアマンは「発想の回路」を持っている

 もう一つ、理解しておくべきこととして、中川氏は「『おもしろい』の一番の敵は予定調和だ」と指摘する。

人は想定していないことに、おもしろさを感じるのです。あなたがこれまで見てきた映画やドラマを思い出してみてください。予定通りに展開するものは凡庸に感じ、自分の予想が裏切られたときに驚きや興奮を感じたと思います。(中略)予定調和ではないとは、つまり「入口と出口にギャップがある」ということです。入口か出口のどちらかが見えていれば、そこにギャップが生まれるように、もう片方を設計してあげればいいのです。(P.111)

 中川氏によると、ヒットを出し続けている人たちは、このような法則を完全に理解しているのだという。

 そして、アイデアマンと呼ばれる人たちは「発想の回路」のパターンをたくさん持っている人たちなのだ。

彼らは即座にアイデアや企画が閃いているように見えますが、その場でゼロからつくっているわけではありません。頭の中に複数の回路をあらかじめ用意してあるので、それを瞬時にガチャガチャと組み替えてアイデアや企画を出しているだけなのです。(P.112)

 「発想の回路」を持っておくことで、スピードを持って精度の高い企画を出せるようになるなら、ぜひ手に入れたいものだ。

 そして、「この回路は自分の仕事に合わせてオリジナルで作ることができる」と中川氏は語る。

 本書では、コンビニに並ぶアイスで「発想の回路」のつくり方を解説している。早速見ていこう。

「発想の回路」のつくり方

 中川氏が提唱する「発想の回路づくり」は次のようなものだ。

 1. フォーマットをつくる
 エクセルを開き、表を作る。左上から右に向かって「タイトル」「困りごと」「アイデア」「発想の回路」とセルの列に項目名を入れる。

 2. 商品・企画名をリストアップする
 このフォーマットの「タイトル」の下に受賞リストの上位受賞順、もしくは売上ランキングの売上順に、上から企画名や商品名をリストアップしていく。

 3. 「困りごと」と「アイデア」を記入する
  
「困りごと」には、その商品・企画が何を解決しようとしているのか、なぜ企画されたのかというWHYに当たるものを記載する。「アイデア」には、その困りごとに対して商品・企画から提供された価値を入れる。困りごとをアイデアの力でどう解決したかというHOWの部分をピックアップする。

 4. パターンを抽出する
 
最後に、「発想の回路」だが、ここはパターンを抽出する作業となる。「困りごと」と「アイデア」を見比べて、「これってつまり○○ってことだよね」と、ひとことで言えるような「企画のパターン名」を入れる。

 これは、「困りごとに対して、何をしたことによってその企画にギャップが生まれたのか」を考えることだ。これが、あなた自身の回路になる。

 実際のアイスを例に見てみよう。

 ●タイトル(商品名)→クーリッシュ
 困りごと→バニラアイスは歩きながら食べにくい
 アイデア→飲むアイス
 発想の回路→食べ方を変える。

 ●タイトル(商品名)→爽
 困りごと→バニラアイスは夏食べるにはコッテリしている
 アイデア→氷とアイスでサッパリ
 発想の回路→別の食材で食感を出す

 見てわかるように、一番大事なのは最後の「発想の回路」なのだが、これを作るときにはコツがあるという。

 それは①一言で言える、②他でも成立する、③自分が覚えられる、の3つだ。

回路をつくるときに注意しなければならないのは、抽象度と具体性のバランスです。回路があまりにも具体的すぎると再現性がなくなるので、いざというときに使えません。回路の抽象度は、自分でリストアップした他の事例に当てはめても使えるくらいの粒度にしておくことで、実際に自分で企画を考えるときにも使える回路になります。(P.141)

「発想の回路」で効率よく、良質な企画を

 次に、この発想の回路の使い方を見ていこう。

 発想の回路を使うときには、「困りごと」と「アイデア」の間にこの「回路」を入れて、アイデアを導き出すのだそうだ。

 クーリッシュの例を見ると「(困りごと)バニラアイスは歩きながら食べにくい」→「(回路)食べ方を変える」→「(アイデア)飲むアイス」ということになる。

 クーリッシュは「食べ方を変える」という回路を入れて考えたものだが、困りごとに対してさまざまな回路を当てはめてみると、また違うアイデアが生まれてくるはずだ。さまざまな回路を当てはめながら、複数のアイデアを考えだし、ベストなものを選べば良い。

 企画は、イチから考えようとすると時間もかかるし、なかなかアイデアも出てこない。しかし、ある程度の方向性や方法が決まっていれば、イメージもしやすくなる。

 特に、仕事には締め切りがつきものだ。こういった回路を自分で準備することで、効率よく良いアイデアが出せるようになるのは、非常にありがたい。

 ぜひ本記事を参考に、自分にとって使える「発想の回路」をつくってみてほしい。