アイデアが思いつかない」「企画が通らない」「頑張っても成果が出ない」と悩む方は多くいます。その解決のヒントになるのは、世の中にある「優れたアイデア」です。『発想の回路 人を動かすアイデアがラクに生まれる仕組み』の著者、クリエイティブディレクター中川諒氏が、「今の時代に、人に評価されるビジネスアイデア」を分析し、そこから学べることを紹介します。

フランスの自動車会社が「自社の利益」より大切にするものとは?Photo: Adobe Stock

目先の利益ではなく「ひとつ上の次元」で行動できるか

カンヌ映画祭が終わった6月、世界中の広告クリエイターが鎬を削った「仕事」がフランスのカンヌに集まります。広告業界最大の祭典「カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバル」です。記念すべき70周年となった2023年は、86ヵ国から2万6千を超えるエントリーが集まりました。そこから受賞できるのは、そのなかの3%にすぎません。

本記事では、カンヌライオンズ受賞作から、とくに「ビジネスアイデアが際立ったもの」を分析し、「私たちが学ぶべきところ」を解説します。

フランスの自動車会社ルノーが行った、工夫です。

ルノーはビジネス上の課題を抱えていました。

それはフランス全土に100万台を超える電気自動車が走っているにもかかわらず、公共の充電ポータルがまだ8万箇所しかないということです。

特に郊外のエリアには数が少なく、電気自動車への移行の足枷となっていました。

そこで自動車会社であるルノーが行った工夫が「電気自動車の充電用airbnb」をつくることでした。

民泊で個人の家に泊まるときのように、「個人用の充電ポート」を借りることができる仕組みをつくったのです。

ビジネス上の課題をうまく逆手にとって、新しいビジネスモデルにしています。

僕がアイデアを考えるときの思考フレーム「工夫の4K」に当てはめてみると、以下のようになります。ちなみに4Kとは、改善・解決・解消・回避の4つのKです。

まずうまくいっていない問題を抱えている「現状」、そしてその問題を引き起こしている「原因」、さらに「理想」の状態を整理していきます。

通常はそのあと、現状にアプローチする「改善」、原因にアプローチする「解消」、理想にアプローチする「解決」、そして全く違うアプローチを考える「回避」をそれぞれ考えていきますが、今回は実際に行われた解決策なので「解決」だけ埋めていきます。

現状:電気自動車の台数を増やしても、地方に充電できる場所がない

理想:電気自動車をどこでも充電でき、移動を楽しめる
  (乗る障壁を下げることで、電気自動車を普及させる)

原因:充電スタンドを増やすにはコストがかかり、地方まで手が回らない。
←解決:電気自動車のためのairbnbをつくる

フランスの自動車会社が「自社の利益」より大切にするものとは?4K思考マップ

はじめて見た人は、「なぜ自動車会社が、充電用のairbnbを?」と思われるかもしれません。

しかし、4K思考マップで整理すると、この工夫が理にかなっていることがわかります。

ユニークな点は、ルノーが用意した充電airbnbを競合他社の電気自動車でも使用できることです。

そんなルノーの工夫は、自社の利益のためだけではないように見えます。

「地球のために電気自動車を増やす」という思想を元に、充電できる場所を増やす。

自社の目先の利益だけでなく、地域や業界全体のためになる「ひとつ上の次元」でアクションを起こすことで、ブランドのファンが増えるアイデアになっています。

もしかしたら他社の電気自動車に乗っているユーザーが、これをきっかけにルノーに乗り換えることもあるかもしれません。

技術が標準化されて商品の機能だけでは、他社と差別化が難しくなっていると言われる現代。

本当に地球によいことや、人々の生活を便利にすることを突きつめて考えて実行することが、ブランドの価値を高め、強くしていくのだと思います。

(本記事は『発想の回路 人を動かすアイデアがラクに生まれる仕組み』を参考に、著者が分析した書き下ろしです)