「子どもには、少しでも体によいものを食べさせたい!」ですよね。
でも、ごはんは毎日のこと。なるべくシンプルで簡単に済ませたいものです。
この連載では、『医師が教える 子どもの食事 50の基本』の著者で、赤坂ファミリークリニックの院長であり、東京大学医学部附属病院の小児科医でもある伊藤明子先生が、最新の医学データをもとに「子どもが食べるべきもの、避けるべきもの」をご紹介します。
本書の読者からは、
「子を持つ親として、食事の大切さがよくわかった」
「本を読む習慣がない私でも読みやすく、頭に入りやすかった」
「何度も読み返したい本!」

などの声がたくさん届いています。不確かなネット情報ではなく、医学データと膨大な臨床経験によってわかった本当に子どもの体と脳によい食事。毎日の食卓にすぐに取り入れられるヒントが満載です。
※食物アレルギーのある方は必ず医師に相談してください。

【小児科医が教える】「偏食がある子、ない子」。健康状態に表れる違いとは?Photo: Adobe Stock

偏食の子どもたち

 当院にこんな患者さんがいらっしゃいました。

小学校1年生の女の子。
保育園のころから偏食がひどく、野菜も魚も苦手で、食べるのは白いごはん。やせていて、風邪をひきやすい。給食でも食べられない献立が多く、お昼の時間が苦痛。母が食事を工夫するが頑固な面があり、食が進まない。スナック菓子をはじめとするお菓子は食べる。

 診察させていただき、次のようにお伝えしました。

食事内容と幼少期からの発達についてヒアリングを行い、血液検査を実施。不足・欠乏している栄養素と、漢方薬を処方し、食事指導を実施。苦手な食材でも出し続けるように伝える

 その後も受診していただき、次の改善が見られました。

1か月後あたりから、それまで食べなかったものを食べ始めるようになった
その2か月後には給食の時間が嫌ではなくなり、食べられる献立も増えてきた
体格も「やせ」が少しずつ改善していった。

 このような事例は、とてもよく見られます。

極度の偏食が続くと、栄養障害リスクになります

 極端な偏食は、自閉症のお子さんによく見られます(もちろん偏食だからといって自閉症というわけではなく、また、偏食のない自閉症の方もいらっしゃいます)。
 自閉傾向がある子は、いつも同じものを好む特徴があるので、特定の食べ物に固執することがあります(いつも特定の食べ物だけを食べるからといって自閉症とは、限りません)。

 白いごはんだけを長期にわたって食べていると、脚気(かっけ)という病気になって、死んでしまうことさえあります。おもに明治時代に流行しましたが、白いごはんではなく麦飯を食べていた人たちは、麦飯に含まれるビタミンB1のおかげで脚気になりませんでした。

食事を楽しみましょう

 偏食を治したいがために、つい叱ってしまう親御さんがいますが、食卓は楽しい場にしたいですね。食べられない食材やメニューばかりに注目するのではなく、「どうしたら楽しい食卓になるか?」に焦点を合わせてみましょう。

 とはいっても、偏食をどうにかしたい親御さんは多いはず。偏食についてのある研究で、一度、子どもが拒否・拒絶した食べ物であっても、8~15回出すことで、食べられるようになるというデータがあります。*101

 また、自分が育てた野菜には愛着がわき、食べることに前向きになります。環境が許せばベランダ菜園を設けたりして、親子で一緒に育てる、調理する、食べるというサイクルを作ることは有効です。

 この患者さんには、間食は「甘いもの」「スナック菓子」という思い込みから脱却していただくよう、親御さんにお願いしました。間食に卵焼き、ナッツ、ちくわ、高野豆腐で作った軽食、焼き鳥、くだもの、スティック野菜をおすすめしています。

「やせ」にも注意する必要があります

 親御さんが「うちの子はやせているわけではない」と思っているケースもあります。お子さんがやせているかどうかを、一度、数値で確認してみましょう。計る指数として、0~5歳まではカウプ指数、6~15歳まではローレル指数、16歳以上ではBMIを用います。ネットで検索して年齢、身長、体重を入力すると、すぐに結果が出ます。

「やせ気味」「やせすぎ」に入るお子さんの場合、体だけでなく、脳や心臓、骨にも十分な栄養がいきわたらず、骨折の危険性が生じるほど骨が弱くなってしまう子もいます。
「体質的にやせている子」と「食べないでやせている子」の2種類いるわけではなく、年齢と身長の比率で「やせ」なら脳と体の健康リスクがあります。小児科医や信頼できる専門家に相談して、「やせすぎ」ではないカラダになれるよう皆でサポートしたいですね。

偏食がある子、ない子で、どんな違いが出る?

 偏食が強いと、鉄や亜鉛などのミネラルが不足して貧血になるリスクが急上昇します。「めまい、息切れ、易(い)疲労(疲れやすい状態)」など貧血の身体症状だけでなく、集中力の低下、情報処理速度の低下、情緒の不安定などが起きることもあります。外から見えない脳の中にも影響があるのです。

 このほかにも『医師が教える 子どもの食事 50の基本』では、子どもの脳と体に最高の食べ方、最悪の食べ方をわかりやすく紹介しています。

(本原稿は伊藤明子著『医師が教える 子どもの食事 50の基本』から一部抜粋・編集したものです)

*101 Carruth BR, et al. Prevalence of picky eaters among infants and toddlers and their caregivers' decisions about offering a new food. J Am Diet Assoc. 2004 Jan; 104
(1 suppl 1):57-64