周りが気づいてあげられるサイン
その人の「基準」からの乖離
大西 顔色、表情、姿勢、身だしなみ、痩せた、太ったなどの外見と、そして生活態度です。期限や時間を守り、定時に来ていた人が遅刻するなどもわかりやすい体調変化の兆候です。普段からいつもバッチリお化粧をしている人のメイクが手抜きになったり、いつも身だしなみに気を使っている人のシャツがしわくちゃだったり、食べこぼしがそのままだったり、眼鏡が曇っていたりすると、その人はそうしたことに構っていられないほど疲れているとか、気力がなくなったとか、何かしらの変化が起きているわけです。
極論ですが、女性が認知症になると、メイクや服装がおかしくなることが多いです。手抜きになるという方向性ばかりではなくて、眉毛の描き方が左右で違っていたり、色みが派手すぎたりというケースがあります。さらにTPOに合わない着飾り方をしていたり、主治医になぜか突然バラの花束を持ってきてしまうという人もいます。
また、会議中の居眠りに関しては、「睡眠時無呼吸症候群」にかかっている可能性もあります。夫婦で寝室が別だったり、また単身赴任だったりすると夜中の呼吸停止やひどいいびきに、誰も気づいてあげられないのですよね。
秋山 ひとりひとりに対して、その人としての標準があって、その標準からどのくらい乖離しているかを見極めるということですね。目の光、肌の色、レスポンススピード……。私は他人の外見に関心がなくて、アウトプットさえ良ければ、だらしない服装でもまったく気にならないので、心してよく観察しなければなりませんね(笑)。
大西 テレワークの導入などで、部下や同僚の微細な変化に気づくのは難しくなっているということもあるかと思います。しかし、加齢でいろいろなことが負担になっているということは、外見だけでなく仕事ぶりにも表れるので、アウトプットをきちんと見ているなら、いつもしないミスをしている、クオリティーが下がった、納期に遅れたなど、普段との違いが検知できると思います。また、直接の部下でない場合は、直属の上司に最近、「Aさん、最近どう?」などと聞くと、何か気づいていることを教えてくれるかもしれません。同じ部署でなくても、毎日顔を合わす機会のある周囲の部署の人に聞いてみるのもいいです。ちょっと元気がない感じがするとか、服装が乱れがちだとか、気づく人は気づきます。
秋山 そういう異変があれば、管理職は病院に行くことを勧めたり、休んだらと声をかけてあげたりしたほうがいいのですね。
大西 「何かあったら言ってね」とか、「産業医に相談したらどうかな」などと気にかけていることを示す声をかけることはとても重要ですね。会社として、本当に調子が悪ければ、仕事を休んで病院に行ける体制が必要です。新型コロナ禍のとき、ある日突然誰かが濃厚接触者としていや応なく出社できなくなるという経験をしましたよね。平時でも、誰かが急に休まなければならないときに、仕事が回るようなバックアップ体制を作っておくべきだと思います。従業員が高齢化すれば、必ず病気などで仕事を休む確率は上がるわけですから。どの世代の人も体調が悪ければ平日でも医療機関を受診することができる職場の雰囲気はとても大事だと思います。
秋山 誰もが体調を崩すことを前提に、いろいろな組み合わせで誰かが抜けたときのシミュレーションをしておくといいですね。リスクマネジメントの観点からも、そうした体制を作っておくことで、いざ誰かが休んだとしても大きな損失を防ぐことができます。
大西 いろいろな制度や働き方があるということも再認識されると思います。
秋山 加齢といえば、最近は高額なアンチエイジング手法や、サプリメントや、健康器具に凝る人もいますね。
大西 きちんとデータを取り、エビデンスがあるものもあると思いますが、根拠のない怪しいものも多いです。患者さんで糖尿病の1粒10円のコストパフォーマンスのすごく良い治療薬は飲んでくれないのに、なぜ、根拠が怪しい十数万円もするアンチエイジングのサプリメントをせっせと飲むの?と思うこともあります(笑)。
医師の本来の仕事は、病気の状態をマイナスだとすると、それを病気でない状態、つまりゼロにすることなので、アンチエイジングは現在はあまり医学的な領分として発達していません。もちろん、科学的エビデンスがあるアンチエイジングはあるでしょう。そうした分野はこれから切り開かれていくのだろうと思います。