競合相手を分析し出し抜くドラッカーの「弱点攻略戦略」

前回の連載記事『「先制総力戦略」で新たな市場を創った伊藤園』では、ドラッカー塾(R)のプラグラムをもとに、新事業を成功させる7つの戦略のうち、自ら新たに市場をつくる際に有効な先制総力戦略について述べた。今回はその先制総力戦略を脅かす弱点攻略戦略について解説する。(ドラッカー塾(R) 今給黎健一)

 市場や業界でリーダーになることを目指す戦略の二つ目は、弱点攻略戦略だ。ゼロから市場を創り出すリスクはなく、すでに存在する市場で先行するマーケットのリーダーである競合相手を、創造的に模倣することで出し抜く戦略である。

 先制総力戦略によって新たな市場を創った商品・サービスを分析し、至らない点を様々な視点からあぶり出し、改良する。顧客視点で製品・サービスを改良するので、創造的模倣戦略とも呼べる。

IBMにあってアップルに欠けていたもの

 かつて、松下電器産業(現パナソニック)が「マネシタ電器」と揶揄されたが、同社が先行する商品を模倣、改良し、大量に安価に売り出した手法をイメージするとわかりやすいかもしれない。弱点攻略戦略の前提は、模倣の対象となる製品・サービスがすでにある程度成功を収めている市場があることだ。

 模倣には徹底した顧客視点が必要だ。

「顧客はこの商品で何をしたいのか?」
「何のために必要なのか?」
「この商品は、そういった顧客の願望を叶えることができるのか?」

 といった問いで商品を購入する動機を明確にしていく。

 もしくは、先行する商品・サービスを顧客視点で徹底的に分析する。

「いま売られている商品に顧客が欲しがっていない、必要としていない、使われていない機能はないか?」

 という問いで改良のポイントを明確化する。

 ドラッカー教授は次の事例を挙げている。

「IBMが1970年代に、主要なパソコンメーカーになったことを考えるとよくわかるでしょう。よく知られているように、パソコンを発明したのはアップルです。それまでは、メインフレームコンピューターがあるだけで、しかもどんどん巨大化していました。IBMは当時、世界のメインフレーム市場で首位を占めていました。アップルのパソコンは発表されるとすぐに大評判になりました。数年以内にアップルが世界最大のコンピューター会社になり、IBMのメインフレームに取って変わるだろうと、誰もが信じて疑わなかったものです。しかし、IBMはアップルに勝つための努力を始めました。アップルの弱点はなんだろう? と考えたのです。わずか1年半で、IBMはパソコンユーザが必要とし、欲しいと思っていたけれど、アップルには欠けていたものを売り出しました。すなわちソフトウェアを搭載したパソコンです。その1年後には、IBMのパソコンは世界ナンバーワンとなり、その地位を10年以上も維持し続けました」。