創造的模倣による弱点攻略戦略にも特有のリスクがある。市場に先行した商品・サービスのブランディングが浸透している状態では、後発の改良品は見向きもされない可能性が高い。最大のリスクは、先行する市場リーダーの商品・サービス自身が、自らを創造的に模倣する(=改善し続ける)ことによって、弱点を消し去り、先手を取り続ける状況だ。

 逆に言えば、市場を創り、そこでのリーダーの地位を維持したければ2つの戦略、すなわち先制総力戦略と弱点攻略戦略を組み合わせればよい。先制総力戦略で市場の地位を獲得したら、その地位に満足することなく、ただちに自らの商品・サービスを顧客視点で改良する努力を開始するのだ。

 そのためには謙虚にユーザーの本心を拾い上げることが必須だ。先制総力戦略で市場に革新的な商品・サービスを投入した企業は、成功している商品・サービスを自ら陳腐化させる努力を行い続けることで、その地位を守ることができる。継続的に顧客の本音を聞き出し、言葉になっていないニーズを明らかにすることが仕事に組み込まれている必要がある。

ユーザーが漏らす本音を逃がさない

 株式会社筑水キャニコム(本社所在地:福岡県うきは市)は、農業用運搬具を主力とする運搬車・作業車メーカーとして市場をリードしている。同社では、製品の改良を続ける習慣が業務に組み込まれている。

 ちなみに、この会社の製品のネーミングはかなり変わっている。果樹園などで使われる農作物の運搬機は「ピンクレディ」。「草刈り機MASAO(Hey Masao)」という草刈り機に、「代表取締役社長芝耕作」という芝刈り機などだ。ネーミングは変わっていても製品が競争優位であることは間違いない。改良を重ね、かゆいところに手が届く商品設計でトップクラスのシェアを誇っている。

 その改良方法は独特だ。家庭用ビデオを携えた社員が、ユーザーに日ごろの使用について録画しながら質問する。「なにか困っている点はありませんか?」「どこか使い勝手の良くないところは?」等々。なかなか明確には答えてくれないのだが、ふとした瞬間にユーザーの本音がのぞくことがある。