ドラッカー教授は柔道戦略の事例についてこう述べている。

「日本企業がアメリカ市場においてコピー機、工作機械、家電、自動車、ファックス等の様々な分野で次々に首位を獲得したことについて説明します。アメリカ企業が自分の長所と考えていたものを短所に変えて打ち負かしたのです。アメリカ企業は収益性の高さこそ最大の長所と考えていたのです。日本企業は、最低限の機能しかない低価格製品で市場に参入しました。アメリカ企業は、日本企業と競争するつもりは全くありませんでした。収益の高いハイエンド市場にしか興味がなかったからです。しかし、日本企業は量販市場を制覇したおかげで、ハイエンド市場に進出するためのキャッシュフローを手にしました。実際、すぐに量販市場とハイエンド市場の両方を支配するようになったのです」

リーダー企業の4つの間違いにつけ込む

 柔道戦略がつけ込むことのできるリーダー企業の間違いは、主に次の4つのうちのどれかだ。

1.高収益のハイエンド市場へのこだわり
2.全ての機能を1つのパッケージにまとめて提供しようとするやり方
3.自らが開発したもの以外は受け入れないと言う姿勢
4.何が優れた商品かを決めるのは顧客ではなく自分たちだという思い込み

 新規参入者は、市場のリーダー企業のこうした姿勢を発見し、それにつけ込む方法を考えなければならない。そのためには業界のこと、そして何より顧客についての慎重な分析が必要だ。

 一方で、新規参入企業に対して、市場リーダーからの抵抗は拍子抜けするほど小さいことがしばしばだ。新規参入企業はまず目立たない市場セグメントに参入し、必要なキャッシュと利益を獲得したうえで、市場全体に打って出る。

 柔道戦略は市場リーダーを目指す戦略の中で最もリスクが小さい戦略であるが、前提として、新規参入企業の製品やサービスに、決定的に差別化できるものがなくてはならない。ドラッカー教授は次のように言っている。

「例えば、1970年代に日本の自動車メーカーが提供して自らを特徴づけたのは、低価格と低燃費に加え、故障の少なさと優れた保守サービスでした」

 また柔道戦略では、新規参入企業には機敏さが求められる。機会を察知する能力と、すぐにでも行動を起こせるだけの胆力とそれを支えるキャッシュが必要だ。