ドラッカーの「柔道戦略」で巨人を打ち負かしたテスラ

直近2回の連載記事(「『先制総力戦略』で新たな市場を創った伊藤園」「競合相手を分析し出し抜く『弱点攻略戦略』」)を通じて、新たに自ら市場をつくる際に有効な先制総力戦略と、それを脅かす弱点攻略戦略について述べた。今回は市場に割り込んで参入するための柔道戦略を紹介する。(ドラッカー塾(R) 今給黎健一)

 ドラッカー教授は日本の文化、社会、企業に造詣が深く、日本画の収集家でもあった。日本画のコレクションに「山荘コレクション」と自ら名付け、日本でも美術展を開くほどの高いレベルの作品収集を行った。

 また日本の歴史についても大変詳しかった。ドラッカー塾専任講師の国永秀男氏(株式会社ポートエム代表取締役)は、生前のドラッカー教授とのこんなエピソードを披露している。

「2000年にマネジメントの基本と原則を体系的に学ぶ方法について聞くために、ドラッカー教授のご自宅に初めてお伺いしました。ドラッカー教授からは、『それならば渋沢栄一のことをよく調べなさい』と言われました。ドラッカー教授は自らを『MEIJI-MAN』と呼ぶほど、明治維新についても高く評価をしていました」

日本通のドラッカーが柔道になぞらえた戦略

 市場リーダーを目指す戦略のうち、3つ目の戦略である柔道戦略は、日本通のドラッカー教授らしい定義である。優れた柔道選手は、対戦相手の長所や短所を徹底的に研究する。誰もが長所を武器に試合を組み立てるが、特定の長所に頼ることで、逆にどこかに脆さや空きが生じないかを探すのだ。

 同様に、市場のリーダー企業は高い確率で自社の長所に依存して商品・サービスの提供を続けるものと考える。同じ強みに頼り続ける傾向があるなら、今後の行動パターンも予測できるはずである。こうして、柔道と同じように市場リーダーの隙を見出し、そこを攻める戦略だ。

 いまや時価総額でトヨタをはるかに超えている電気自動車メーカーのテスラは、2008年の創業だ。当時、自動車産業は、世界で1000万台クラブを実現し、生き残りをかけることが常識だった。そこにスタートアップで参入することに世の中は驚いた。しかも、技術的に課題が山積みの電気自動車での参入とあっては、冷ややかな目が大多数だった。当時の自動車産業は新規参入どころか、USAビッグスリーのGM、クライスラーが2009年にチャプター11(米連邦破産法第11章)を適用し実質倒産する状況にあった。