一つには、将来、年齢と共に所得が上がると期待できるか否かについては、これまで以上に個人差が広がると思われることが問題だ。将来所得の増加に対する楽観は「誰にでも」勧めていい前提条件ではなさそうだ。

 また、もう一つには、「ある程度の備え」を持っていると、リスクに対する対処について「保険」という加入者側にとって著しく不利な手段に頼らずに済むからだ。

『DIE WITH ZERO』の著者は、成功したトレーダーであり、端的に言って平均的な人よりもかなりお金持ちだ。例えば、著者は、将来何歳まで生きるか分からない「長生きのリスク」への備えとして、年金保険の購入を勧めている。しかし、並みの日本人の経済力でこれをまねようとすると、若い時分の消費が高額な保険料支出でかなりの程度阻害されることになるだろう。そうなっては、この本の主旨に反する。

 日本の場合、「何歳まで生きるか分からない」という長生きリスクへの保険として、原則として終身で給付される公的年金がかなり大きな役割を果たしてくれる。普通の経済力の人にとって、保険会社のもうけが大きな年金保険は不要だし、関わらない方がいい。民間の生命保険会社のがん保険を含む医療保険も、日本の場合は充実した健康保険が存在するので、不要である。

 ただし、いずれのリスクにあっても、「ある程度は」自分で使える自分の金融資産があることが好ましい。

 また、失業保険に関しては、それほど充実しているとは言い難いので、「会社から自由になるためのお金」として、例えば1、2年分の生活費に相当する金融資産をなるべく早く形成しておくことが望ましい。

 もっとも、「会社から自由になるため」ということに関しては、お金の備えと同等あるいはそれ以上に、他社にも雇ってもらえるような仕事のスキルや、それなりの収入を期待できる副業を持っていること、あるいは転職を容易にする人脈を持っていることなどの効果が大きいだろう。

 もちろん、価値のあるスキルを持っている人も備えとしての金融資産を持っているといいのだが、お金に全てを頼る必要はないことを強調しておきたい。