いずれにせよ、猿之助一家は、なにかを予見して準備をしていたのかと思うほど、もともと薬品を所持していたか、購入ルートを確保していたことになります。(ただし、サイレース20錠で死に至るという見方は否定する精神科医が多く、「猿之助」がビニール袋を両親の顔にかぶせたことが直接の死因となったというのが、大半の医師たちの意見です)
歌舞伎界や沢瀉屋を取り巻くモヤモヤを、一気に解決できるチャンスがジャニーズ問題によって招来し、それによって得をしたい誰かがニュースソースを焚きつけて、歌舞伎ファン(主に高齢女性)がよく読む女性セブンを選んだ。この狡猾な人物は誰なのか。それが私の疑問であり、知りたいことです。それこそが、事件の実相だからです。そのためにはセブンのニュースソースを突き止め、その真意を問い質すしか道はありません。
「まさか死者が出るとは……」
今こそニュースソースを探し出すべき
まさか、死者が出るとは思わなかった――。今、編集部もニュースソースも、そう思って心を痛めているはずです。こんなときこそ、ニュースソースを探し出し、その経緯や情報提供の真意を問い質す。これこそ、週刊文春に求められていることではないでしょうか。
取材されたとき、「猿之助」は自殺を口走ったのかどうか。「猿之助」という名跡やスーパー歌舞伎の演出者でいられなくなるというその後の展開を、彼はこの時点で理解していたのかどうか。そのやりとりが知りたいのです。
大きな事件が起こると、あとで「誰が得をしたか、その人物が犯人ではないか」という議論が出ます。ただ、それだけでは多くの場合、陰謀論にしかなりません。しかし、「いつこのスキャンダルを出せば最大の効果が出るのか」を判断できる人間は、そうはいません。狭い歌舞伎の世界でその人を探し出すことも、そんなに難しいことではないと思います。
これこそ、正統な取材手法ではないでしょうか。
(元週刊文春・月刊文芸春秋編集長 木俣正剛)