歌舞伎界のルールを
乗り越えてしまった人々

 風向きが変わったきっかけは、藤間紫氏が亡くなったこと、そして先代猿之助の判断力が著しく衰えをみせていたことでした。香川氏はその時期に再度面会にいき、猿之助一族に自分を迎えることを承諾させます。

 もともと、子どもが照之氏以外にいない猿之助は、後継を亀治郎(現・猿之助)に譲ろうと考えていましたが、亀治郎が助け船を出しました。自分には子どもがないことを理由に、香川氏には中車、その息子に団子という名前を与えました。

 永年にわたる香川氏の歌舞伎界への悲願は、ここで果たされたわけです。しかし、一族のこの決断自体、異様なことでした。基本的に香川氏は、歌舞伎界の血を継ぐとはいえ、中年に近い年まで歌舞伎の訓練を受けていません。にもかかわらず、中車という名前をもらい、歌舞伎役者として出演することになりました。

 もともと大仰な演技が得意な香川氏ですから、違和感を抱かない読者もいたとは思いますが、永年歌舞伎の世界にいた人々は、彼の歌舞伎界入りを決して好意的に感じてはいなかったはずです。

 しかし、俳優として『半沢直樹』シリーズで日本を代表する役者に登り詰め、さらに「猿之助」や片岡愛之助などの歌舞伎俳優がテレビドラマに多く登用されるにつれ、香川氏は歌舞伎界でも存在感を増していきました。ところが、昨年のパワハラ、セクハラスキャンダルによって一瞬にして役者としての声望を失い、俳優もCM出演も多くを望めない立場になってしまいました。

 そして今回降ってわいたのが、「猿之助」の自殺未遂事件です。