ここで、私の胸騒ぎを整理します。歌舞伎界では、もともと伝統を破壊する先代猿之助や沢瀉屋への反発が強かった。それに香川照之氏が、一種のルールを乗り越えて入り込んだことへの反発も強かった。

 つまり、「猿之助」の周辺には歌舞伎界の長い長い相剋の歴史が、くすぶっていたのです。「猿之助」が自殺を図る際に遺産相続の相手を指名していたことは、「誰かに遺産まで奪われるのではないか」という恐怖心を抱いていたということでもあります。マッチの火を放り込めば大火になる――。まさにそんな状況に、歌舞伎界も沢瀉屋もなっていたのです。

 こう考えると、ジャニーズの性加害が社会的な大問題になった時期を狙いすましたかのように「猿之助」の記事が出たことは、単なる偶然と言い切れるでしょうか。セブン編集部も、そのニュースソースも、さらにその背景にいたかもしれない人物も、まさか死人が出るとは思っていなかったと思います。しかし、この記事で確実に「猿之助」の座が危うくなる事態になり得ることはわかっていたはずです。

報道はどこまで信じられるか?
薬の入手経路に関する4つの可能性

 今、報道は、「猿之助」が自殺幇助なのか殺人なのかで大騒ぎをしています。しかし、報道の内容には、信じられないものが多いのも事実です。

 たとえば、「猿之助」の両親は20錠程度の睡眠薬で亡くなって、飲んだのはサイレースとレンドルミンの2つの薬だったということです。私は精神科医や製薬会社の薬剤師に取材しましたが、サイレース20錠は致死量にはなりません。サイレースは1mgと2mgがあるので、2mgとしても20錠で40mg。しかもサイレースは、米国では依存や乱用の危険性から持ち込み禁止となっている劇薬です。そんな薬品をどうやって、短い時期に調達できたのでしょうか。

 また、複数の精神科医に薬の入手経路について意見を聞くと、4つの可能性を教えてくれました。

 (1)今まで処方していた薬をストックしていた。ストックするほど処方されていたなら、処方された人間は不眠症ではなく、何らかの精神的な疾患を患っていた可能性が高い。

 (2)ネットやブローカーから購入していた。

 (3)本人ではなく両親が服用していた(父親は末期癌、母親も介護疲れと心労があった)

 (4)「猿之助」がたった1日でことを成し遂げた状況から見て、両親の過量服薬は初めてではないのではないか。