半導体を制する者がEVを制す#3Photo:Hideyuki Watanabe,123RF

中国と米国・台湾との緊張感が高まっている。台湾有事が現実のものとなった場合に、世界の半導体サプライチェーン(原材料・部品の供給網)はどのような打撃を受けるのか。米中による覇権争いの行方はどうなるのか。特集『半導体を制する者がEVを制す』の#3では、大ベストセラー『半導体戦争 世界最重要テクノロジーをめぐる国家間の攻防』の著者で、国際歴史学者のクリス・ミラー氏に大胆な予言を聞いた。(聞き手/ダイヤモンド編集部 村井令二、副編集長 浅島亮子)

“兵器化”する半導体と
一触即発の米中覇権争いの行方

 米中の覇権争いが激しさを増す中で、半導体は破滅的な兵器になった――。

 過去70年以上にわたる半導体の歴史を描いた著書『半導体戦争 世界最重要テクノロジーをめぐる国家間の攻防』でクリス・ミラー氏は、国家の命運を決する半導体の特性を一言で描いてみせた。

  米中対立の命運を決するのは「計算能力(コンピューティングパワー)」だ。それに不可欠な半導体は、複数の国にまたがる長いサプライチェーンの工程ごとに、ごく少数の企業が支配する寡占の産業である。

 例えば、先端半導体の製造は台湾積体電路製造(TSMC)が世界シェア90%以上を占め、半導体メモリーは、サムスン電子とSKハイニックスの2社を擁する韓国が世界シェアの44%を生産している。半導体の設計ソフトは米シノプシスなど3社の寡占状態。半導体製造装置でも米国、日本、オランダの3カ国の数社による寡占となっており、極めて特殊な産業構造をしている。

 故に米国は、これら一握りの企業の製品の出荷を止めれば、中国に打撃を与えられることに気付いた。今まさに、中国に対する半導体規制を日本とオランダを巻き込んで強化している最中だ。

 だが米国の思惑通りに事が進むとは限らない。米国が強靱化を急ぐ半導体サプライチェーン(原材料・部品の供給網)の要所は、台湾という小さな島に恐ろしいほど依存している。一方の中国は“再統一”を狙い台湾への軍事侵攻を辞さない姿勢を示している。世界の半導体の“台湾化”は極めて重大な地政学リスクをもたらしているといえよう。

 こうした一触即発の「米中対立の覇権争い」はどこへ向かうのか。さらには、台湾有事が現実になった場合にTSMCは機能不全に陥ってしまうのか。次ページでは、国際歴史学者のクリス・ミラー氏に大胆に「予言」してもらった。