米エヌビディアをAI王者に押し上げた“キングメーカー”でもある台湾クアンタ・コンピュータは、世界初のAI向け高速コンピューティングサーバーを製造し、台湾の工場にAIの新時代を切り開く。特集『エヌビディア AI王者と台湾の黒子』(全7回)の#3では、クアンタが起こしてきた3度の変革と、AI時代の野望をひもとく。(台湾「財訊」 楊喻斐、翻訳・再編集/ダイヤモンド編集部副編集長 大矢博之)
ノートパソコンのOEMで急成長
一転してクラウドサーバーに注力
現在、台湾クアンタ・コンピュータ(広達電脳)はAIサーバーで世界をリードする。クアンタクラウドテクノロジー(QCT、雲達科技)の楊麒令総経理は昨年、AIサーバーの出荷割合が50%を超えたことを初めて明らかにした。クアンタのAIサーバーの導入実績が、他の同業他社よりも早く進んでいることに業界は驚いている。ノートパソコンからクラウド、AIサーバーに至る道のりは、クアンタが設立から35年の間に経験してきた3度の大変革だ。
クアンタの林百里董事長は創業当初、パソコン(PC)はテーブルに固定されるものではなく、持ち運べるものであるべきだと主張していた。「当時、多くの顧客は私のことを笑い、米インテルですら持ち運べるPCは不可能だと言って信じませんでした」。しかし、林氏は自らのビジョンを強く信じていた。
1990年、クアンタがノート型コンピューターを正式に量産すると売上高は急成長し、2001年までに世界最大のノート型コンピューターのOEM(製造受託会社)になった。当時、米ヒューレット・パッカードと米デルのノートパソコンの2台に1台はクアンタ製だった。ソニー(現ソニーグループ)や東芝などの日本企業も顧客に名を連ね、近年では米アップルや米グーグルの「クロームブック」の最大のサプライヤーでもあった。「ノートパソコンが正しいことを事実が証明している。ノートパソコンこそが本物のPCだ」と林氏は語った。
林氏は、科学技術の発展を捉える預言者に近い直観力を持つ。99年にクアンタが上場した際、「ノートパソコンに代わるものは何か」との質問に、「クラウド」と林氏は率直に答えている。04年に米マサチューセッツ工科大学から帰国した林氏は、全力でクラウドを発展させていくという決意を深めていた。クアンタの2度目の変革は世界を混乱させ、林氏は「当時、なぜそれがクラウドと呼ばれるのか、誰も理解できなかった」と嘆いた。