台湾積体電路製造(TSMC)の国内誘致が決まり、量産工場が新設される熊本県や周辺の九州エリアは久方ぶりの活況に沸き立っている。だが、地元の熊本県でその活況を手放しでは喜べない事態になっている。TSMCの日本上陸が国内人材市場に大きなネガティブインパクトを与えつつあるからだ。特集『半導体 最後の賭け』の番外編では、日本の半導体人材が抱える「二つの重大懸念」を解き明かす。(ダイヤモンド編集部副編集長 浅島亮子)
九州・シリコンアイランドの復権に潜む
半導体人材に関する「二つの重大課題」
2月2日、東京都・日本橋のシティホテルでは「熊本県半導体関連企業立地セミナー」が開催されていた。
世界最大の半導体受託生産会社(ファウンドリー)、台湾積体電路製造(TSMC)の国内誘致が決まり、熊本県菊陽町に生産拠点が設けられることになった。TSMC工場の新設が呼び水となり、九州エリアでは半導体関連産業が次々と設備投資計画をぶち上げている。
すでにTSMCは日本に“二つ目の工場”を建設すると表明しており、その立地は「(建設中の)第一工場の隣になることが地元では既成事実化している」(熊本県の財界幹部)という。
今回の企業誘致セミナーのメインスピーカーは東京大学大学院の黒田忠広教授。日本の半導体の積層技術の第一人者である。
それだけではない。参加者には、TSMCの製造子会社JASM(本社は熊本県。株主はTSMC、ソニーグループ傘下のソニーセミコンダクタソリューションズ、デンソー)社長の堀田祐一氏、ソニーセミコンダクタソリューションズ執行役員CFOの高野康浩氏、ミライズテクノロジーズ(デンソーとトヨタ自動車の半導体開発会社)取締役の松ヶ谷和沖氏といった熊本進出企業の幹部が一堂に会した。
セミナー開催の狙いは、熊本県を含めた九州エリアへさらなる企業誘致を呼び込むことだ。一度は下火になった「シリコンアイランド構想」の復権に向けて九州経済は異様な盛り上がりを見せている。
ところが、熊本県に本社を構える製造業社長の表情は冴えない。「地元では、半導体人材の将来性に関して大きな悩みを抱えている」と懸念を表明する。
経済産業省によれば、JASMだけで直接雇用1700人を含めた7500人の雇用効果があるとしている。熊本県を含む九州エリアに半導体関連産業の進出が相次げば、大きな雇用効果が見込めることは間違いない。
それにもかかわらず、地元産業界が半導体人材に関して危惧しているのはどんなことなのか。次ページでは、人材関連の「二つの構造問題」を明かしていこう。