人間は多面体、さまざまな欲求があって当たり前

 私たちは、言ってみれば多面体である。さまざまな欲求を持っている。

 仕事で成果を出して有能さを発揮したいと思う自分もいる。何物にも縛られずに自由に漂いたいと思う自分もいる。でも、生きていく上では生活の糧を得る必要があるので、後者の欲求は抑圧し、前者の欲求充足のために仕事を頑張るしかない。

 仕事で成果を出して周囲から認められたいという欲求のほかに、好きな音楽をやって暮らしたいという欲求を抱えている人も、多くの場合、後者の欲求は抑圧し、せいぜい週末に趣味として楽しむくらいにして、前者の欲求充足のために仕事に集中するしかない。

 生活の糧を得るために、元々多面体である自分を一面的に封じ込めなければならない。それが定年までの仕事生活である。そんな封じ込めていた多面体の自分をいよいよ解放し、これまで抑圧してきた欲求を前面に掲げるチャンスが訪れたのである。

 それは、まさに自己実現への道が開かれたとみなすべきではないだろうか。

 これからはこれまでと違う、もうひとりの自分を生きることができるのだ。別の人生に踏み出してもいい。生活がかかっていたときにはできなかった生き方ができるのである。ここはじっくり腰を据えて、これからの人生で重視する価値を再検討すべきだろう。時間はたっぷりあるのだ。