集団的幻想は一見パワフルに見えるが
本音を言い合うと一瞬で打ち砕かれる

 集団的幻想の興味深い例をさらに挙げます。2020年の大統領選挙のときに、民主党大会の直前に世論調査を行い、いますぐ投票するとしたらどの候補者を選ぶか民主党支持者に聞きました。結果は1位ジョー・バイデン、2位がバーニー・サンダース、3位がエリザベス・ウォーレンでした。

 しかし、もしあなたが選んだ人が大統領になることがわかっていれば、誰を選ぶかと聞くと、エリザベス・ウォーレンが1位になりました。ここに民主主義の問題が潜んでいます。「白人男性の方が、同等の能力を持った白人女性よりも当選の見込みが高いとアメリカ人は考えている」ということになります。他の人が誰を選ぶかを考えて、普通なら選ばない人を選んでしまうということです。もちろんバイデンはアメリカ国民が心底から自分を選んだのではないことを知りません。

 また、世界中のどのメディアでも、アメリカ社会の深刻な分断が取り上げられていますが、実際はそこまで分断されていません。実際に私が共同設立したポピュレース(Populace)というシンクタンクでprivate opinion method(個人の本当の意見を調査する方法)を用いて調査しました。

 その調査をする前に「我々の社会は以前より分断されていると思うか」と聞きました。80%の人が「以前より分断されていると思う」と答え、その中で半数の人が、「極度に分断されていると思う」と答えました。

 そのあと、うそをつくことができない調査方法を使って調査すると、言われているほど我々は分断していないことがわかりました。つまり我々の多くが、共通の価値観を共有していることがわかったのです。本当はそれほど分断されていないのに、まるでcivil war(市民戦争)の状態であるかのように、公の場で振る舞っていることがわかりました。

 これは、集団的幻想は一見パワフルに見えるけれども、実際はもろいことを示しています。お互いに本音を言うと、その瞬間に集団的幻想が打ち砕かれるほどもろいのです。