トッド・ローズトッド・ローズ/心理学者。誰もが活気ある社会で満ち足りた人生を送れるような世界の実現を目指すシンクタンク〈ポピュレース〉共同設立者・代表。ハーバード大学教育大学院で博士号を取得し、現在は心、脳、教育プログラムのハーバード教育大学院心理学教授として〈個性学研究所〉を設立したほか、「心・脳・教育プログラム」を主宰した。著書に『ハーバードの個性学入門――平均思考は捨てなさい』(早川書房)、『Dark Horse――「好きなことだけで生きる人」が成功する時代』(共著、三笠書房)がある。

内心では同意していないのに他のほとんどの人はそれに同意していると思い込んで、自分もそれに同調することで発生する「集団的幻想」。勘違い、誤解、思い込みから起きる「集合的幻想」を打ち砕く世界一簡単な方法を、元ハーバード教育大学院心理学教授のトッド・ローズ氏が伝授する。(心理学者 トッド・ローズ 取材・構成/大野和基)

内心では同意していないのに
周囲に合わせて同調してしまう

 私は“Collective Illusions”(直訳:集団的幻想:邦訳『「集団の思い込み」を打ち砕く技術』NHK出版刊)を執筆しましたが、あまりにも反響が大きく、驚いています。この集団的幻想というのは社会的現象の一つで、内心では同意していないのに他のほとんどの人はそれに同意していると思い込んで、自分もそれに同調することで発生します。

 人間は群れをなす種(しゅ)ですから、誰でも「同調バイアス」を持っています。これは無意識に多数派が正しいと思い込んでその考えに合わせることですが、もちろんその考えが正しいとは限りません。

 一つの例として、ほとんどの日本人男性は「自分以外の男性は、育児休暇を取るよりも仕事をすべきだと思っている」と思い込んでいると著書に書きました。つい最近、厚生労働省が発表した数字では、大企業の男性の育休取得率は46.2%ですが、中小企業を含む全体では17.13%と非常に低い。

 また、アメリカではマスクをしている人はほとんどいませんが、日本では政府が、近距離で会話をする場合以外は「屋外ではマスクを外しましょう」「屋内でもマスクを着ける必要はありません」と宣言しているにもかかわらず、まだかなりの人がマスクをしていると聞いています。これも同調バイアスです。

 酷暑の中、マスクの着用は熱中症のリスクを高めます。どうすれば、「政府がマスクは不要と言っても、外さない日本人」のマスクを外せるのでしょうか。