直接的な説教は逆効果
効果を上げるには「目立たない」こと
バックグラウンディングという方法を紹介しましょう。大規模に行うキャンペーンと違って、キャンペーンをしていることを目立たないようにすることです。さきほど言った薬物撲滅キャンペーンと逆の発想です。
その具体例を挙げます。元々北欧の国々で実践されていたアイデアですが、飲酒運転を減らす方法です。みんなで飲みに行っても、一人は帰りにみんなを車で送るために飲むな、と説教するのは、強引すぎてなかなか受け入れられません。
そこでハリウッドを巻き込んで三大ネットワークがやったことは、「指定運転手キャンペーン」です。それは大々的にキャンペーンをするのではなく、テレビの人気娯楽番組の中に出てくるセリフの中に入れて、目立たないようにしてキャンペーンをする方法です。
“Cheers”という人気番組では、こういう場面がありました。バーに座っている客のところにバーテンダーがやってきて、「何を飲みますか?」と聞くと、その客は「私は何も飲みません。私は指定運転手なので」とセリフを言う場面です。こういうシーンを人気番組の中に入れるのです。これを4年にわたって、160以上のゴールデンアワーの人気番組でやりました。4年後、飲酒運転による死亡が30%減少しましたが、このキャンペーンが功を奏したことは間違いありません。
成功した一つの理由は、「飲むな!」というネガティブな説教のような表現ではなかったこと、日常の行動を大きく変えろというものではなかったことが挙げられます。これは、集団的幻想をうまく利用した方法です。この方法を使うと「マスクを着ける必要はない!」という直接的な表現よりも、マスク着用を減らすことがより簡単にできるのではないでしょうか。
ソーシャルメディアによって
同調バイアスが加速度的に強化
トッド・ローズ 著、 門脇弘典 訳
私は著書に「集団的幻想は数とインパクトを加速度的に増しつづけ、現代社会を決定づける特徴の一つにまでなった」と書きましたが、その要因の一つは明らかにソーシャルメディアです。誰もが持っている同調バイアスという人間の本性がソーシャルメディアで加速度的に強化されたと言っても過言ではありません。
ソーシャルメディアをはじめとしていかなるテクノロジーも、もろ刃の剣です。意図しない結果が必ず出てきます。ソーシャルメディアでいうとそれが普及し、言論の自由の幅が広がったはずですが、実際はアメリカ人の60%以上の人がself-silencingを認めています。これは言いたいことがあってもSNSには投稿しないで、自分を黙らせるという意味です。
少数意見でも何回も投稿される意見が、多数派とみなされ、今目の当たりにしているのは、少数派が多数派を黙らせている状態です。政治家はこのことを熟知しており、うそであっても何回も繰り返して“真実”にしているのです。