中国はロシアに似た強権国家であり、議会制民主主義や三権分立、言論の自由、少数民族の人権などの原則を重視しない国だ。EUは中国についても、外交、安全保障、人権保護などの分野で、ロシア同様に「欧米の価値観との衝突」が起きる可能性があるとみている。したがってEUは将来、重要な原材料については中国経済への依存度を減らす方針を持っている。ドイツなどEU加盟国が長年にわたりロシアの化石燃料に依存して、大失敗した経験を繰り返さないためだ。

 将来、万一中国が台湾に対する武力攻撃を行った場合、EUは中国に対してもロシア同様に厳しい経済制裁措置を実施せざるを得ない。このため欧州人たちは、中国への依存度を減らしながら、再エネ拡大やモビリティーのグリーン化に必要な天然資源をいかにして確保するかについて、対策を練り始めている。

「クリーンなエネルギーのための金属」争奪戦

 たとえば欧州非鉄金属連合会(EUrometaux)は、2022年4月に「クリーンなエネルギーのための金属」と題した報告書を公表した。報告書は、同連合会がベルギーのKUルーヴェン大学のリースベット・グレゴワール研究員らに委託して作成させたものだ。

 グレゴワール氏らはこの報告書の中で、「欧州では風力発電所、太陽光発電所の建設やBEVの増加のために、2050年までに非鉄金属、リチウム、希土(レアアース)などへの需要が爆発的に高まる」と主張している。

 この報告書によると、EU加盟国の風力発電設備の製造に必要な非鉄金属の需要量は、2020年には7万5000トンだったが、2050年には175%増加して20万6000トンになる。BEVの電池に必要な素材の需要量は、2020年の3万4000トンから約38倍に増えて、128万7000トンになると予想されている。特にリチウムの需要量はこの期間に2万3000トンから861万トンに増える(374倍の増加)。

 風力発電設備のタービンに必要な永久磁石の製造には、プラセオジムという希土の一種が使われる。EU域内での風力発電設備の増設に必要なプラセオジムの量は、2020年から2050年までに664%増加すると予想されている。しかもこうした非鉄金属や希土はEUだけではなく、米国やアジア諸国でも需要が高まるので、これらの天然資源の争奪戦が展開される可能性が強い。