経済安全保障のために希少資源のリサイクル推進を

 ドイツではすでに希少資源の輸入量の中で、中国の比率が高いことを問題視する声が上がっている。

 ドイツ連邦統計局によると、同国は2022年1月から11月に希土を5300トン輸入したが、65.9%が中国からの輸入だった。さらに、そのうち永久磁石の製造に使われるプラセオジム、ランタン、ネオジム、サマリウムの75.4%が中国から輸入されていた。ドイツ経済研究所(DIW)のルーカス・メンクホフ研究員は、「ロシアのウクライナ侵攻は、強権国家からの天然資源への依存が、自国経済にいかに深刻な打撃を与えるかをはっきり示した。中国からの希土への高い依存度を減らすために、オーストラリア、インド、ブラジルなどからの調達量を増やすべきだ」と主張する。

 そこで欧州非鉄金属連合会が提案しているのが、希少資源のリサイクルだ。現在欧州ではアルミ、銅、亜鉛の40~50%がリサイクルされているが、太陽光発電設備に使われる珪素(けいそ)やBEVに使われるリチウムのリサイクル率はゼロである。

 このため同連合会は、「EU域内に珪素やリチウムなどのリサイクル制度を構築して、2050年の珪素のリサイクル率を24%、リチウムのリサイクル率を77%に高めるべきだ」と提案している。またコバルトのリサイクル率を2020年の8%から2050年には67%に、プラセオジムなどの希土のリサイクル率を2050年に100%に引き上げることも提案されている。

 我々はリサイクルという言葉を聞くと、ペットボトルや紙などを想像しがちだが、欧州では21世紀の経済活動を左右する、戦略的に重要な鉱産資源のリサイクルが焦点となっている。

「一つの国」への依存から脱却する欧州

 ドイツ政府は、重要原材料に関する中国への依存度を減らすことを決めた。ショルツ政権は6月14日に国家安全保障戦略、7月13日に対中戦略文書を発表した。同政権はこの中で、中国との関係断絶や封じ込めは行わないが、重要原材料など一部の分野での高い依存度を引き下げるデリスキングの方針を打ち出した。

 ショルツ政権は2つの文書の中で、「中国はパートナー、競争相手、ライバルだが、近年はライバルとしての性格を強めている。中国はルールに基づく国際秩序の変更を試みている他、新疆ウイグル自治区やチベットでの人権侵害など、我々の価値観と相容れない行動を取っている」と批判した。

 2つの文書は「気候変動の抑制などについては、中国と協力する必要があるため、関係を断つデカップリングは行わない」としながらも、「ドイツはエネルギーやモビリティの転換に必要な原材料など一部の領域での中国への依存度が極めて高くなっている。ドイツの過去の対ロシア政策の失敗の教訓を生かして、中国への過度な依存を減らすデリスキングを行う」と明言した。この背景には、長年にわたりロシアのエネルギーに大きく依存して、去年夏に天然ガス供給停止によって梯子を外された、ドイツ政府の苦い経験がある。彼らはこの失敗に懲りて、対中政策を修正しようとしているのだ。地政学的リスクが増した今日の世界では、高い依存度の引き下げが各国政府にとって重要な政策目標になりつつある。

 欧州委員会も今年3月16日に「重要原材料法案」を公表した。欧州委員会は、EU経済のレジリエンス(耐久性)を高め、サプライチェーンを守るために、脱炭素化に貢献するネット・ゼロ産業、デジタル産業、航空産業、防衛産業に不可欠な戦略的鉱産資源の自給率を高める。

 具体的には、2030年までにEU加盟国が消費する戦略的に重要な鉱産資源の少なくとも15%をリサイクルし、10%を域内で採取する。さらに欧州委員会は、戦略的に重要な鉱産資源については、EU域外の一つの国に依存する比率が65%を超えることを禁止する。EUは名指ししていないが、「一つの国」が中国であることは明白だ。

逆戻りする世界経済のグローバル化

 このようにウクライナ戦争によるエネルギー情勢の激変は、戦略的に重要な鉱産資源に対する欧州のスタンスにも変化を及ぼしている。我々が今目撃しているのは、生産費用を抑えるために極端なまでに進んだ「国際分業と経済のグローバル化」という映画の逆回し、つまり経済の非グローバル化、ローカル化の動きである。

 発電の主役が化石燃料から再エネに代わっても、限りある資源の奪い合いの構図は変わらない。日本の多くのメディアは大きく報道していないが、重要資源をめぐる争奪戦は、我々日本人にとっても、決して「海の向こうの話」ではすまない。