日本の若き逸材がマンチェスター・ユナイテッドの「夢のオファー」を断った理由日本の若き逸材ゴールキーパー・鈴木彩艶 Photo:Buda Mendes - FIFA/gettyimages

サッカー日本代表の守護神候補と期待される鈴木彩艶(すずき・ざいおん/21歳)。ガーナと日本のハーフで、驚異的な身体能力を持つゴールキーパーだ。鈴木は今夏までJリーグの浦和レッズに在籍し、そこからベルギーの中堅チームに移籍した。だが、鈴木の元には世界を代表する名門クラブ、マンチェスター・ユナイテッドからも獲得オファーが届いていた。その「夢の移籍」を、実は鈴木は断った。なぜ彼はその選択をしたのか。取材で鈴木が残した言葉から、プロサッカー選手のキャリアプランやステップアップの在り方を考察する。(ノンフィクションライター 藤江直人)

世界の超名門クラブからの
誘いをあえて拒否

 進んでいく道が三差路に差しかかった。一つは現状維持。もう一つはヨーロッパの中堅国への移籍。そして最後が世界最高峰とされるイングランド・プレミアリーグの名門クラブへの移籍。浦和レッズ生え抜きの逸材で、将来は日本代表の守護神を担うと期待される鈴木彩艶は熟慮を重ねた。

 2年前の東京五輪では、歴代最年少の18歳でU‐24日本代表に選出された。国内組だけの編成で臨んだ昨年7月の香港代表戦(EAFF E‐1サッカー選手権)では、A代表デビューを完封で飾っている。そんな鈴木は、かねて壮大な夢を抱いてきた。

「プレミアリーグで活躍する最初の日本人ゴールキーパーになって、世界一を目指していきたい」

 だからこそ、鈴木が下した決断は意外だった。プレミアリーグで歴代最多の13回の優勝を誇る、マンチェスター・ユナイテッド(以下マン・U)からオファーが届いていた鈴木が選んだのは、ベルギー1部で優勝経験がなく、昨シーズンも16チーム中で9位だったシント=トロイデンだったからだ。

 憧れ続けてきたプレミアリーグの、そのなかでも一握りのビッグクラブの一員になれる絶好のチャンスをあえて遠ざけた。ベルギーへ渡る前に実施された取材対応。鈴木は「最後は自分の意思で決断しました」と、シント=トロイデンへの移籍を決意するまでの経緯を説明した。

「マン・Uからオファーがあったのは事実ですし、今回の決断はサッカー選手としても、一人の人としても本当に迷いました。何も考えなければもちろんマン・Uに行きたいと思いましたが、その先にどういう未来が待っているのかを時間をかけて考えた結果、今回の移籍に至りました。一歩一歩、確実にステップアップしていくことが大事だと判断しました」

 鈴木の言葉のなかでキーポイントとなるのが「ステップアップ」となる。サッカー選手は誰でも、プロのキャリアのなかでできるだけ高いレベルでプレーしたいと望む。日本人ならばJリーグ、そのなかでもピラミッドの頂点となるJ1を経て海を渡るキャリアが、ステップアップの代表例となる。

 海外でも世界のサッカー界の中心を担うヨーロッパでは、イングランドを筆頭にスペイン、イタリア、ドイツ、フランスが5大リーグとして君臨する。そのイングランドを代表する「超」の付く名門クラブへ、一足飛びにステップアップできるオファーに鈴木は断りを入れたわけだ。