その前提で、一定T型(H型)になれていて、今後もキャリアを継続して高めていきたいのであれば、早めに出産して戻るほうがよい。いや、「よいらしい」。というのも、事実として、私のもとに寄せられるのは「早くてよかった」という声が多いのだ。逆はあまり聞かない。なお、個別の事情は無限にあるため、これが「答え」ではない点は十分に気を付けてほしい。
それと、これは非常にデリケートなテーマのためとても伝えづらいのだが、あくまで生物学的な事実として、妊娠はタイミングが遅くなると(不可能ではないが)確率が下がる傾向にある。また、第2子、第3子の出産も選択肢に入りやすいことから、「早くてよかった」と感じる方がどうやら多いようだ。
キャリアの観点では、出産前に市場価値のベースがあるのが望ましい。ただ、仮にベースが弱い状況でも、本人の意識と努力次第で挽回できる可能性は、十分ある。
最後に、復帰後の仕事のしやすさの観点から補足すれば「自分の行動量に頼って成果を出す」スタイルではなく、「業務設計や人のマネジメントによって、自分の行動量に依存せず成果を出す」スタイルにフェーズを1段上げておくことも有効な対策となる。要は管理職になると働き方をコントロールしやすいということなのだが、管理職になれるタイミングが比較的遅い会社もあり、このあたりは非常に難しい。
「ずっと働くのがふつう」ではない
徳谷智史 著
人生には仕事から離れないといけないシーンがやってくる。産休・育休にかぎらず、予期せぬタイミングでの介護、心身の不調などだ。「常に働いていることがふつう」という思い込みがあると離れることに抵抗があるかもしれないが、労働寿命が伸び続ける時代、あらためて大学に通ったりスキルを磨きなおすために職場を離れることは、より一般的になるだろう。
もし健康を害したとしても、何かのシグナルだと捉えて無理せず休んだり、プライベートとのバランスを考えたりすることが、長期的にみればプラスになるかもしれない。
人生のスピード感は人それぞれだ。そして、すべてがコントロールできるわけでもない。
無理に生き急ぐこともないし、シニアになったからといって、もはや自分に新しいチャレンジはできないと諦める必要もない。長い人生、休憩や脱線だってあっていい。「キャリアジャーニー」という言葉には、そんな思いもこめている。