悩む夫婦のシルエット写真はイメージです Photo:PIXTA

共働き世帯にとって、介護は育児に並ぶ家族タスクのひとつ。もし、親の介護が必要になったら、あなたは仕事をどうするだろうか?働く女性のセカンドキャリアを支援する筆者が、二つの家庭のエピソードを紹介。親の介護で最低限備えておきたい二つのポイントを解説します。(Next Story代表 西村美奈子)

役職定年して転職する前日に義父が倒れた!

 ある日突然、義父が倒れた――。働く女性にとって(もちろん男性にとっても)介護は育児に並ぶ大きな課題のひとつ。家族の誰かに介護が必要になったとき、あなたは仕事をどうするだろうか?

「介護離職」(介護を理由に会社を辞める)は、高齢化の進展とともに、働く人にとって身近な問題となっている。少し古い話だが、第2次安倍内閣で打ち出された「一億総活躍プラン」(2016年閣議決定)では、「介護離職ゼロ」の目標が掲げられ、仕事と介護の両立が可能な働き方の普及促進を目指し、翌17年に育児・介護休業法が改正された。

 しかし、残念ながら、介護離職者は依然として減っていない。厚生労働省の雇用動向調査によると、21年の離職者のうち、「介護・看護」を理由とする人は約9.3万人。特に多いのは、55歳~59歳の女性で、このうち10.5%が「介護・看護」を理由にしている(なお、女性でも他の年齢層では0.3~4.7%程度、同じ年齢層の男性は1.7%)。介護のためにフルタイム勤務を諦め、拘束時間の少ない職に変わるケースも多い。

 工藤佐和子さん(仮名、63歳)の場合は、義父の介護問題がある日突然、降りかかってきた。しかも“最悪”のタイミングで、だ。

 工藤さんは大手企業で課長職を役職定年後、60歳の定年を待たずして、全く違う業界に転職した。役職定年後の居場所がなかったわけではないが、なんとなく居心地の悪さを感じて、「新しい世界に飛び込んでもう一度チャレンジしよう」と一念発起。セカンドキャリアに踏み出した。

 そんな工藤さんに「義父が倒れた」と連絡が来たのは、長年勤めた会社を辞め3週間の充電期間を経て、いよいよ新しい会社に勤め始める前日だった。

「え~!?私、明日から新しい会社で働くんだけど…」。義父が倒れて救急搬送されたと一報を聞いたときの、工藤さんの正直な気持ちだ。半年間は有休もなく、入社早々休むわけにもいかない。せっかく苦労して手に入れた新しい世界を失うことはしたくなかった。

 60歳手前の転職活動は、楽ではなかった。大手企業の管理職という、女性としては頑張った部類だと思っていたが、そんなことは転職活動には関係なかった。何枚も出した履歴書と数々のお断りメールを思い出しながら、「もしかしたら、仕事を諦めなくてはいけないの…?」と思うと、やるせない気持ちになった。しかし同時に、そんな自分が嫁として不義理なようで申し訳ない気持ちにもなった。