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キャリアという言葉は、車輪の轍に由来しています。車輪の通った道がこれまでの人生を表し、未来へと続く――。キャリアは1度きりの「点」の意思決定ではなく、1本の「線」として連なっています。本稿では、キャリアの基本の4類型と、進路の選択について解説します。
キャリアは、1本の「轍(わだち)」である
キャリアという言葉は、「車輪の轍」に由来している。車輪の通ってきた道が、あなたのこれまでの人生を表し、そして未来へと続いていく。そういう意味では、キャリアは1度きりの「点」の意思決定ではなく、1本の「線」として連なっている。
最初に就職した会社内で異動をし、いつかは転職をする。次に起業・独立することもあれば、さらなる転職でキャリアアップする事例もある。社内に残る意思決定をした人も、副業を行うケースもあれば、タイミングを見て転職するケースもある。つまり、時間軸とともに、環境もその人自身も動的に変わっていく。
逆説的ではあるが、だからこそ重要なのは、1手先ではなく、そのまた2手先を見ることだ(図4‐1)。「ありたい姿」を定め「市場価値」を高め、「目的を持った掛け算」で未来を築いていく。途中で行き先は変更になるかもしれない。だが、足元、目先しか見ていない状態だと望む未来にはまずたどり着けない。現時点での方向性を定め、遠くの目的地を見据え、ジャーニーを進めていこう。
図4-1 キャリアの点を線にする 出所:エッグフォワード作成(『キャリアづくりの教科書』P.214より転載) 拡大画像表示
キャリアの基本となる4類型
未来を見据えるときに非常に重要なのが、図4‐2のキャリアの4類型だ。それぞれの類型は、横が自身が発揮できる能力の「広さ」、縦が特定領域での能力の「深さ」を指す。
図4-2 キャリアの4類型 出所:エッグフォワード作成(『キャリアづくりの教科書』P.215より転載) 拡大画像表示
・I型
I型人材は、「人事一筋」「エンジニア一筋」「研究開発一筋」のように、単一の職種をずっと深掘りすることで、その分野のテクニカルスキルと経験を蓄積している人材だ。
特定領域で希少性を持っているのは素晴らしい。ただ、注意が必要なのは、その特定領域がどの程度求められるかという「市場性」が、時代によって変わりうることだ。たとえばそのスキルを持つ人材そのものがテクノロジーによって代替された途端に、急激に市場価値が下がる懸念がある。
・T型
T型人材は、「一定の幅広い経験に基づく能力」に加えて、「単一の特定領域で深い専門性を持つ」人材だ。
たとえば、営業経験を長く積んで深い専門性を身につけるとともに、営業「企画」や営業「戦略」といった隣接領域でも幅広い経験を積んだ人。
営業プレイヤーとしての深い専門スキルに加えて、どの業務でも幅広く通用する組織マネジメント経験を積んだパターン、あるいはアライアンスや折衝など周辺領域で価値を出せるだけの幅広さを有しているパターンなどもこのT型に該当する。
・H型
H型人材は、「幅広い経験に基づく能力」に加えて、「複数の特定領域で深い専門性を持つ」人材だ。たとえば、前述の営業の深い専門性に加え、コーポレート・人事などの、営業とは異なる領域においても深い専門性を持ち、双方の能力が希少と言えるまでに高く、かつ双方の能力を掛け合わせて価値を発揮できるパターン。
開発業務において、フロントエンドからバックエンドまで幅広く担当できるエンジニアのことをフルスタックエンジニアと呼ぶが、双方が希少なレベルであれば、これも一種のH型ともいえる。プレイヤーとしてフロント・エンドの開発もでき、全体像が見えているため運用・保守・アップデートなどまで一手に引き受けられるため価値が高い。
他の職種で隣接領域の例を挙げれば、営業なら「戦略」と「実行」、マーケティングなら「オフライン」と「オンライン」、コンサルなら「戦略系」と「再生系」といった具合で、隣接しつつも求められる能力が異なる領域を両方担当できれば、希少性が増すことは理解してもらえるだろう。
経営層に近いクラスになると、ほぼH型、あるいは、後述するブリッジ型人材(HH型)が非常に多くなる。たとえば、昨今急速に市場性が高まっている、CHRO(最高人事責任者)。人事といっても、人事領域の能力だけでは厳しい。
というのも、CHROは、「人・組織の専門家」ではなく、「経営課題を、人・組織の観点から解決していくポジション」なのだ。よって、人事領域における深い専門性など「守り」はもちろん、加えて全体戦略を高度に理解し展開できる力、あるいは、営業やマーケティングなどより現場に近い「攻め」にも一定の知見が求められる場合がほとんどだからだ。
・HH型(ブリッジ型)
HH型(「橋」のイメージになぞらえて「ブリッジ型」とも呼ぶ)人材は、まず自分の中に複数のHをつくれているのが基本形だ。加えて、発展形になると他者の専門性をも掛け合わせていける、そんな人材を指す。自分のHHを起点に、さらに他者を巻き込みHが複数重なっていくイメージで、これからの時代はこのブリッジ型の市場価値がさらに大きく増していくことになる。
私はブリッジ型を、複数の専門性を両手で束ねるイメージから「両利きのキャリア」と呼んでいる。たとえば、左手では、「第三者目線のコンサルティング」もできるし、右手では、「当事者として事業開発」もできるといった具合だ。何かを得たら何かを失うトレードオフではなく、複数の専門性を上乗せしていく「トレードオン」の考え方だ。
先ほどのCHROの例をさらに高度化すると、まず、人事・組織への知見は当然深く(I型)、周辺領域でも幅広い経験を有しており(I型→T型)、人・組織の観点で事業を成長につなげられる戦略・マーケティングの知見を持ち(T型→H型)、さらには、事業フェーズの変化に合わせた人材調達や入れ替え・再編、つまり「事業再生」に近い知見もある(2個目のH)。加えて、昨今の資本市場の要請の変化に合わせた対投資家へのIR知見も提供でき(3個目のH)、さらに過去に起業や子会社の経営経験もあり、経営陣としてのビジョン発信力もある(4個目のH)……。どうだろうか。複数の専門性が重なってブリッジ型になるほど、幅広い知見を組み合わせられるため、出せる価値が非常に高いのだ。







