「歯が要らないくらい、やわらかいお肉ですね!」「噛まなくても、口の中でとろけちゃいます」テレビのグルメ番組でこうした食リポをよく見聞きするようになりました。歯科医師としては、「噛まなくてもいい食事」=「おいしい食事」のイメージの定着が心配です。今回は、「口から始まる負のスパイラル」についてお伝えします。(歯科医師 宮本日出)
現代人は、全然噛んでいない!
噛む回数と時間が戦前に比べ半減
農林水産省によると、日本人の「噛(か)む回数と時間」は時代と共に減り、今や戦前の半分以下になっています。戦前は1回の食事で噛む回数が「1420回」、時間は「22分」でしたが、現代は「620回」「11分」に激減しているのです。
また、「食品の咀嚼(そしゃく)回数の変化」(和洋女子大学・柳沢幸江教授)によると、鎌倉時代は同様に「2654回」「29分」噛んでいて、さらにさかのぼり弥生時代は「3990回」「51分」も噛んでいたそうです。
https://www.maff.go.jp/j/syokuiku/minna_navi/topics/topics4_02.html
食品の咀嚼回数の変化(斎藤滋、柳沢幸江、料理別咀嚼回数ガイド、第1版、東京、風人舎、1955)
https://www.lotte.co.jp/kamukoto/body/1641
現代の食事は、古代の食事に比べるとどんどんやわらかくなっています。レストランやファストフード店のメニューやスーパーで売っている加工食品を見ても、やわらかい食べ物が好まれていることがよく分かります。食べ物がやわらかいと当然、噛む回数や時間は減ります。
あるいは、食事中にもスマホなどを使用するようになり、食事に集中しなくなったことで回数と時間が減っている可能性もあります。大手食品メーカーロッテの『全国「噛む力」調査』によると、「食事の際に『よく噛むこと』を意識していますか」という質問に、「あまり意識していない・まったく意識していない」と答えた人は全体の60%以上と、残念な結果が出ました。
また、夕食時に一口当たりの噛む回数について専門家は「30回以上噛むこと」を勧めていますが、同調査で96%の人が「30回未満」と答えています。加えて、20代の男性は噛むことを意識する割合が最も多かった一方で、40代の男性が最もその意識が低いことも分かりました。仕事などに追われ多忙な生活で、ファストフードの利用や、食事時間を短く切り上げる人が少なくないためでしょう。