ある意味救いだったのは、ジュリー前社長が、私財を投げ売ってでも補償をすると示唆したことです。強すぎる母の下でお嬢様として育った彼女にも、もちろん責任はあります。しかしメリー氏も、弟の性癖を娘に聞かせたいとは思わなかったはずです。彼女が現実をほとんど知らなかったというのは事実でしょうし、これを機にすべてを投げ出し、株を売って、静かな余生を送る選択もあったはずですから、これはいい意味での「お嬢様の判断」だと思って、信用したいと思いました。

 それ以外は、ほとんどの言葉が私には疑問に思えたし、また未来や理想形が見えないものでしかありませんでした。

 最も課題を感じるのは、現役タレントの「被害告白」がないことです。会見でも東山氏は「私の方から聞くわけにはいかない」などと苦しい発言に終始しました。しかしBBCが火をつけ、世界が今ジャニーズと日本のメディアを見続けている視点は「Me Too」なのです。同僚や後輩のために、海外で女性たちが勇気を出して声を上げたのは、自らの人権を守るための行為であり、それは結果として、彼女たちや女性全体の地位向上を促しました。

 現役タレントたちが声を上げるのは、立場上、非常に難しい判断であることはよくわかります。彼らの中にもし悩みを抱えている人がいるとしたら、自らが不利益を被ることなく、安心して相談できる仕組み作りを、ジャニーズ経営陣は早急に行うべきでしょう。

再発防止策を講じる
だけでは意味がない

 私は提案します。今後全マスコミ(キー局と大新聞だけでも構いませんが)が、ジャニーズ事務所やタレントに関する報道に対して事務所から圧力をかけられるようなことがあった場合、それに一丸となって適切に対抗するための「共同宣言」を出してほしいと。そうでなければ、今回明るみに出た問題は、解決に向けて前進することなく、半年もたてば元の木阿弥に戻ってしまうでしょう。

 またジャニーズ事務所も、世の中の評価を真摯に捉えないと、そう遠くない未来に、立ち行かなくなってしまうはずです。すでにいくつもの企業が、同事務所のスポンサーを辞退する宣言を出し始めました。通常、ここからのスピードは早いです。ジャニーズの今の体制では、失ったスポンサーに復帰してもらえるまでに信頼回復することは、不可能のように思います。

 考えてみれば、再発防止特別チームによる調査や、事務所が発表した構造改革の実効性には疑問符が付くと言わざるを得ません。事件の当事者であるジャニー喜多川氏が故人となった以上、これから性加害が起こる可能性はないわけで、再発防止策を考えるだけでは意味がありません。この機に自らの体質を抜本的に改めていくことを、肝に銘じるべきでしょう。

(元週刊文春・月刊文芸春秋編集長 木俣正剛)