今になって思うことは、ベンチャー企業に必要なのは、今までにないビジネスモデルを日々の体験のなかから編みだし、それを実際のマーケットに投げ込み試行錯誤しながら鍛え上げていくことだと思います。赤字を出しても調達した潤沢な資金でしばらく食べていけるという環境のもとで、桁外れのアイデアや気づきは生まれないと思います。
投資する金額は少額で、しかもできるだけ早く回収し、次の投資に注ぎ込まなければなりません。虎の子の資金を少人数で、しかも自分たちの知恵だけを頼りに、効率よく回転させなければならないのです。
ビジネスモデルに問題点が見えたらすぐに改善し、軌道修正しなければなりません。いくつものビジネスを並行して走らせ、どれかを伸ばせばいいと悠長に構えていることもできません。一つのビジネスに賭けてなんとか育てていかなければならないのです。
凋落が止まらない地方経済
それでもチャンスは見つかる
私にとって地方は、起業やビジネスの展開に不利な場所ではなく、むしろ常にキャッシュフローを意識し、ビジネスモデルを磨き続けていかなければならないという意味で事業や自分たちをとてつもなく鍛えてくれる場でした。
確かに今、地方経済には勢いがなく、働き手の大都市圏への流出も続いています。私の地元の長崎県も同様です。長崎県の1人あたり県民所得は約265万5000円で全国40位です。東京都の575万7000円に比べ半分にも達しません(内閣府「県民経済計算」2019年版)。
県外への人口流出も顕著です。特に15歳から24歳の若年層では毎年4000人から5000人の転出超過となっています。県内の高校卒業生のうち進学者の6割、就職者の4割が県外に出て行ってしまいます。また、県内出身者で県内の大学を卒業して就職する人の3割が県外へ転出しています(長崎県「長期人口ビジョン」2019年版)。
地方では資金も人も東京などの大都市のように簡単に集めることはできません。起業の環境として厳しいのは明らかです。しかし、だからこそチャンスも多くあり大きく成長できる場所でさまざまな協力を得られるのだと思います。仮に私が東京で起業し、最初に資金と人を得ていたら今の状況はなかったと思います。
しかも地方にしかないものもたくさんあります。例えば私が現在の事業の基になる不動在庫一括現金買取というビジネスを思い立ったきっかけは、個人経営のスポーツ用品店を別のセールス案件で飛び込み訪問し、店番をしていた店主とかれこれ1時間も雑談を交えて話をしていた時のことです。