そしてこのリアルな膝詰めの会話があったからこそ、地方商店特有の深刻な悩みを知り、当社が提供できる解決策が見え、それが現在の年間取扱高308億円という巨大なビジネスへと育ちました。Webアンケートなどでは決して得られない生の声が聞けたからこそ、全国の地方商店や中小企業にも共通する普遍的な課題をつかみ、それを解決するリアリティのあるビジネスが考案できたのです。
地方での起業は地元に今ある市場を相手にしたもので、その範囲の事業になるから発展性がないと考える人があります。私はそうではないと思います。地方に根差し、そこでしっかりとニーズを掘り下げれば、同じ課題は全国各地にあります。全国で通用するビジネスを創出することができるのです。
厳しい地方環境を追い風に
「攻めきる」覚悟で会社を牽引
あるとき私は、インターネットでベンチャー企業の生存率に関する記事を読んで驚きました。そこでは「ベンチャー企業の創業5年後の生存率は15%、10年後は6.3%、20年後は0.3%に過ぎない」と言及されていたのです。
10年で90%以上が消える事実はあまりにも衝撃的でした。あるエコノミストが講演で話したものがビジネス誌に掲載されたものが出典とされ、結局、元データに遡ることはできませんでした。ただし、まったく根拠のない数字とは思えませんでした。
東京商工リサーチの「倒産企業の平均寿命」を見ると、2021年のデータで約23年となっています。これは企業規模や産業の種別に関係なく、東京商工リサーチの企業データベース157万社のうち倒産した企業のすべてを平均したもので、情報通信業に限れば約15年です。資本金が少なく体力のない中小企業やベンチャー企業だけを集計すれば、さらに短くなることは明らかです。
吉岡拓哉 著
ベンチャー企業は10年生き延びることすら難しい――それなら、起業したら攻めるしかない、攻めぬくことが生き残ることにつながるのだと思いました。
まず潤沢な投資資金を獲得してからという構えでは、攻めぬくというマインドはなかなか生まれません。ここでも地方の起業環境の厳しさが私にはプラスでした。最初のイベント事業がうまくいかなかったときも、スポーツ用品店でビジネスのヒントを得たときも、私には「攻めきる」という気持ちが常にあり、それが会社の大きな成長につながりました。
廃業率を知り、良いサービスを生み出したから成長するのではなく、お客様が使ってみたいと思ってもらったときにものは売れるのだ、そして成長できるのだと、強くかみしめたのです。