インスタグラムが二分した
女性の「キラキラ」と「モヤモヤ」

  振り返ると、昭和の主婦向けメディアといえば「女性週刊誌」や「ワイドショー」だった。女性週刊誌は今も芸能人のゴシップや事件の真相、健康・美容、家事・節約などを中心に取り上げている。

 女性向けエッセイは、原点の『枕草子』の名を挙げるまでもなく、時代を問わず一定の読者をひきつける定番ジャンルだ。80年代頃まではプロの随筆家や作家が担い手だったが、90年代にはそこへ漫画家やタレントが流入。同時期にタレント本ブームが起こり、2000年代にはそれがそのままタレントブログへとシフトした。

 コミックエッセイというジャンルは、いくつかの作品が映画化された影響もあり、2010年頃に読者層以外にも広く認識されるようになった。そこからさらにアマチュア作家に門戸を開いたのがSNS、特に「インスタグラム」である。

 2014年に日本語版が公開されたインスタグラムは、とりわけコミックエッセイと相性が良かった。2023年9月現在、「#コミックエッセイ」のタグが付く投稿は63万件を超える。

 インスタは画像がメインで、しかも正方形が基本だ。次のコマに進むには画面をサッとフリックするだけでよく、その身体経験が「漫画本を読む動作」とよく似ている。ちなみに比較対象としてX(旧ツイッター)を挙げると、1つの投稿に最大4枚の画像があるため、どの順で見るのが正解か迷うこともあるだろう。

「女性のインスタ投稿」といえば、華やかなライフスタイルを切り取る「キラキラ」や「映え」に注目が集まることが多い。キラキラ系の投稿は、いわば「SNS版女性ファッション誌」といえる。

 では生活の中でその他の大半を占める「キラキラしていない部分」はどうか。コミックエッセイは、誰かの実話に重ねて「モヤモヤする気持ち」を吸収してくれる。モヤモヤとはすなわち「人には言えないわだかまり、抑圧感情の種」だ。

 キラキラが出現したからこそ、モヤモヤもまた生まれる。インスタの中で、女性のキラキラ要素とモヤモヤ要素が、まるで上澄みと澱(おり)のように分離したのである。