毒親、ハラスメント、宗教二世……
他人の問題に介入しちゃダメ?

 読み応えのある長編漫画を好む人の中には、コミックエッセイの特徴である「素人っぽいタッチ」や「個人が生活を赤裸々に描くこと」に嫌悪感を抱く人もいる。ではどこに人気の要因があるのだろうか。

 今一度おさらいすると、コミックエッセイで取り上げられるテーマには、恋愛・結婚、仕事、家族、人間関係、病気などがある。さらに細分化すると、婚活や不倫、ブラック企業やパワハラ、転職、育児や介護、親子関係の苦悩や、メンタル問題、障がいとの付き合い方などなど。作品を発表する作者たちがよく寄せる言葉は「私の体験が、同じ悩みを持つ誰かの役に立てば嬉しい」というものだ。

 中には「毒親」や「ハラスメント」「メンヘラ」「依存症」「宗教二世」などの実情を描き、社会に一石を投じた作品もある。日本では「よその家や他人の問題に介入してはいけない」という風潮が強く、これまでそうした問題について当事者目線の体験談を知る機会は乏しかった。

 しかしコミックエッセイで実際に読んでみると、「クラスの中に、あるいはかつての同僚や近所に、そういう子がいたような気がする」という程度に心がざわつく。「自分には関係ない」と決め込んでいたが、身近に人知れず悩んでいる人がいた……という想像力のスイッチが入るのだ。

 そしてもう1つ、作者たちが作品のテーマとしてよく使うキーワードが「生きづらさ」である。

 長引く経済の停滞や自己責任論などで、「失敗してはいけない」という不安が常につきまとう、決して生きやすくはない時代。誰もが大なり小なりの生きづらさを抱えているのだろう。

 自分自身のみならず、これから長い人生を歩むわが子や、身近な誰かがもしも困難に陥ったときに、何とか力になれないか。そう考えると、コミックエッセイが示す「誰かが経験済みのエピソード」には、貴重なヒントがぎゅっと詰まっているように感じる。