時代が変わっても揺るがない
普遍的な「エッセイの神髄」とは
とはいえコミックエッセイの世界はもっと多様で、先に述べた通り、特に「生きづらさ」やカタルシスを伴う展開のない、淡々と日々の出来事を描く作品も少なくない。
特に日常の中の、ふと出会った人の優しさ、夫婦や家族の面白さ、食べ物のおいしさ、動物の愛らしさ、自然の美しさなど……目の前の小さな感動や気づきを記録する描写は、書籍時代の昭和にも、スマホ時代の令和にも変わらず読者の胸に響く「エッセイの神髄」である。
そのようなシーンは、物語のジャンルや主人公の立場に関わらず「モヤモヤを巡らせる段階から、具体的な次の行動につなげる」良いスパイスとなる。主人公が既婚でも未婚でも、家庭が円満でも不和でも、裕福でも貧しくても、平凡でも壮絶でも、男性でも女性でも、だ。
満ち足りた生活でなくとも、日常に散りばめられた何らかの小さな感動を糧に希望をつないでいくことを、コミックエッセイは再認識させてくれる。
プロが描き上げた長編コミックや、重厚で壮大な時代小説や経済小説などを引き合いに、女性たちがハマるコミックエッセイを見くびってはいけない。時代の変化とともに生き方が多様化し「多くの人に当てはまる正解」がなくなったいま、個人や家庭の問題を乗り越えるヒントを、妻たちは画面の奥に見出す方法を探しているのだ。