近年、日本の音楽が活況を呈している。億単位の再生回数記録、国際チャートへのランクインなど、新世代アーティストの活躍が目覚ましい。音楽を聴くスタイルもサブスクサービスが主流となり、いまやヒット曲の指標は「ビルボード・ジャパン」が最も大きな影響力を持っている。CD全盛の青春時代を過ごした中高年世代にとっては、「ヒット曲=オリコンチャート」だったが、音楽シーンを取り巻く状況は様変わりしている。ビルボード・ジャパンとは何なのか、どこに信頼を得たポイントがあるのかを解説する。(取材・文/コンテンツプランナー 今岡由季恵)
縦長のシングル盤を買いに
街のCDショップへ
ポスト団塊ジュニア世代の筆者(1978年生まれ)は、中高生の頃耳にした楽曲が気になると、まずは情報収集のため街のCDショップに足を運んだ。縦長のCDシングル盤を購入するとラジカセでリピート再生し、歌詞を眺めてはその世界に心酔したものだ。
80〜90年代に思春期を過ごした世代にとって「楽曲を聴く行為」は、イコール「CDを購入すること」だった。シングルは1000円でおつりがきて、アルバムは3000円前後。10代でもお小遣いやバイト代で買える絶妙な価格設定だ。CDをレンタルショップで借りてきて、カセットテープに録音することも多かった。
90年代には100万枚を売り上げる「ミリオンヒット」が相次ぐ。このとき我々が毎週チェックしていたのは「オリコンチャート」。ヒット曲をカウントダウンするTV番組も楽しみの1つだった。
「オリコン」は日本の音楽情報サービス企業である。1960年代後半から、レコード売上を集計したチャート提供を開始。現在でもCD売上などをもとに毎週ランキングデータを発表しつづけている。
ちなみに日本で水曜日に新譜がリリースされるのは、オリコンの影響である。CDの出荷・販売スケジュールを加味すると、水曜日が「売上が最大になる」タイミングだからだ。オリコンチャートは唯一にして最大のヒット指標として、2000年代頃までの音楽市場とランキング文化を支えてきた。
一方、我々世代にとって「ビルボードチャート」は「海外のもの」、J-POPを聴かない洋楽ファンがチェックするもの、という認識が主流だったのではないだろうか。日本の音楽シーンにビルボードが進出する状況を予見できた人は、そう多くないだろう。
CDは、1998年をピークに売上減少傾向に転じる。98年はミリオンヒットが年間で計14作品あり、上位3作はGLAY、SMAP、SPEEDだった。