トラブル回避のための数十分の処方箋

 実は現代の長編創作の世界では、昭和の時代劇のような「絶対的な悪者」は好まれない。主人公に倒される悪者や、恋愛ドラマのライバルの過去を丁寧に描く作品が高評価を得ることも多い。しかしこれは長編作品ならではの傾向なのかもしれない。

 かたやSNSやコミックエッセイは、数分から数十分の時間消費に最適化されている。「本当は多面的で複雑な世界を、あくまでも主観的に切り取り、キャッチーな表現で白黒付けて発散したい」というユーザーの心と時間を埋めるものが、結果的によくバズったり、炎上したりする。

 女性たちにとって、家事や育児、仕事などのかたわら「細切れに発生する自由時間内で完結する娯楽」は、大きなポイントだ。さらに家族、姻族、職場、ママ友、近所付き合いなど、ライフステージごとに人間関係を構築・維持するのには、大なり小なりモヤモヤが伴う。やはり「失敗できない」。

 直接的に相手にはぶつけられない抑圧感情の種を、コミックエッセイはうまく薄めてくれるのだ。

 作品の中で主人公が状況を打破するまでの過程は、作者が願う通り、読者たちにノウハウとして蓄積され、現実を生きる処方箋となる。さらに不利な状況を逆転する結末(いわゆる‟スカッと系”)でサクっとカタルシスが得られれば、これ以上コスパやタイパのいい気分転換はない。

 もし妻がコミックエッセイにハマっていたら、どんなテーマの話なのかを軽く聞き出してみてはいかがだろうか。教えてくれる間柄なら、彼女が水面下で意外に神経を削っている「人間関係への気遣い」へも思いを馳せてみてほしい。

 さらにできれば「自分自身が妻のモヤモヤの元凶の1つになっていないか」胸に手を当ててみて、1つでも心当たりがあれば、改めるよう心がけるのが理想的だ。