英国内で長い間行われていた慈善事業は、基本的に貧困者に物や金を与えることに主軸がおかれていましたが、ナイチンゲールはそれではかえって人をダメにすると言います。
それより、その人が持っている自立する力に力を貸して、社会が貧困から脱する道をつけることだと諭しているのです。
この主張は、現代社会においても有効な視点です。人間の本質を見ているナイチンゲールの目があります。
子どもたちについても記されています。
当時ロンドンには街を走り回る10万人もの宿無し子たちがいたようです。彼らを集めて教育を施せば、彼らは自分の生活を支えるに足るお金を稼ぐことができて、貧困の世界に舞い戻ることがなくなるだろうと記されています。また別の方法として、子どもたちを集めて小さな家に下宿させ、その家の人に世話をしてもらうような仕組みを作れば、彼らを貧困状態から離脱させることが可能であろうとも言います。このようにナイチンゲールの提言は、極めて具体的で有益であり、実行可能な内容です。
ナイチンゲールが指摘した事項は、まだいくつかあります。例えば住居の問題、囚人への支援の仕方の問題、さらに意思がある人々を「移民」として送り出すという提案など、救貧という問題を単に嘆くだけでなく、彼らが置かれた実態を実に細かな点まで観察した結果出された対策が打ち出されています。
こうした側面を現代的に捉えれば、ナイチンゲールは単に看護師ではなく、正に福祉の人であり、ソーシャルワーカーであったともいえるでしょう。
看護の知識は誰もが学び
身につけておくべきもの
多くの業績を残したナイチンゲールですが、その中で今日の看護や介護(ケア)の世界に直接的に最も大きな影響を及ぼしているのは、『看護覚え書』(1859)という書物の存在です。多くの一般庶民の間で読まれました。
『社会的身分の低い女性たちによる看護』という当時の常識からみれば、忌み嫌われていた「看護」という表題が付いた本書が、発売当時にベストセラーになるとは思いも及ばないことでした。
「女性は誰もが看護師なのである」という冒頭の言葉で始まる本書は、現代の私たちが読んでもインパクトがあります。
「女性は一生のうちに何回かは身内の健康上の責任を負うことになるので、女性たちは誰でも、看護という営みの、あるべき姿を学ぶべきである」とナイチンゲールは考えました。
現代では「人間は誰もが看護師である」と書き換えられるでしょう。