インフルエンザなどの感染症に罹っている人を想像してみてください。インフルエンザウイルスが体内に侵入すると、その人の体内では、免疫細胞たちがフル回転してウイルスに対抗し、除去しようと働き出します。

 しかし一方では、いつもなら活発に活動している消化器系や運動器系は、その回復のシステムが最大限に機能するのを助けるために、できるだけ自らの活動を活性化させないように抑制をきかせます。

 そのような人を看護(ケア)するにあたっては、まずは患者を酸素を十分に取り込めるように換気を良くした部屋に休ませ、消化の良いものを選び、食べられる時間を観察して提供します。そしてできる限り動き回らないように安静を保たせ、痛みや発熱へのケアを怠りません。

 さらに話しかける声や周囲の音に留意し、ちょっとした気分転換ができるような工夫をし、眠れるようにベッドを整え、解熱と同時に汗が出たら、シーツや寝巻きを取り替え、身体を拭いて水分を補い、身体が冷えないように暖かくし、体内の回復のシステムの発動を助けます。

書影『よみがえる天才9 ナイチンゲール』(ちくまプリマー新書)『よみがえる天才9 ナイチンゲール』(ちくまプリマー新書)
金井一薫 著

 これがインフルエンザに罹った人への基本的な看護(ケア)です。

 ケアを提供する人はまず、私たちの体がもつ『自然の力』や『回復のシステム』を知って、その力が体内で有効かつ強力に発動するように助けなければなりません。

 医師たちのように直接身体内部に治療という形で介入(注射や外科手術など)するのではなく、生活を健康的に整えることによって、体内の治癒力が発動しやすい環境、条件を創るのが看護(ケア)の仕事ということになるのです。

「看護がなすべきこと、それは自然が患者に働きかけるのに最も良い状態に患者を置くことである」

「看護とは、新鮮な空気、陽光、暖かさ、清潔さ、静かさなどを適切に整え、これらを活かして用いること。また食事内容を適切に選択し適切に与えること、こういったことのすべてを患者の生命力の消耗を最小にするように整えることである」

 ここにナイチンゲールが説く看護(ケア)の基本概念が明示されています。これらの文章の意味をつかみ取ることができれば、看護(ケア)のあるべき姿や実践の方向性がみえてきます。